12/29 白鳥(現代) もっともらしい×ボーイフレンド

2012.12.29.Sat.04:07


 おれは、あの子が好きだ。
 橘遠子をみているだけで元気が出る。ポニーテールをゆらして走っている姿を見たときに、好きになった。一目惚れだった。
 二年になって同じクラスだとわかったとき、チャンスだと思った。何度もちょくちょく話しかけているうち、あの子は笑顔をみせてくれるようになった。
 橘の表札を確かめて、真太智はインターホンをおした。
 彼女が忘れた課題のノートを届けにきた。隣の席のよしみ。家もそれほど遠くない。訪ねる理由は十分にあるはずだ。
 電子音が、ドアの向こうで響いた。なのに、誰もでない。
 留守だろうか。思わずがっかりする。一目でも顔が見たい。そう思い詰めてしまう。こんな気持ちは初めてだった。
 きびすを返しかけたとき、ドアがかすかにあいた。顔をのぞかせたのは、男だ。
「どちらさま、ですか」
 同い年くらいだ。強く押したら倒れそうな優等生が、怪訝そうにこちらをみつめている。彼女にきょうだいはいないはずなのに。
「遠子さんは?」
「なにかご用ですか」
「忘れ物を届けに」
 いくらかつっけんどんな言い方になったのは、明らかに迷惑そうに顔をしかめられたからだ。
「ぼくが預かります。遠子は、いまでられないので」
 呼び捨て。かっと頭に血が上った。手にしたノートを渡せば、ここにいる理由はなくなる。でも、渡したくない。このまま引き下がったら、負けだ。
 にらみ合いは、ほんの数秒だった。やつは、笑ってみせた。
「遠子は風呂にはいると長いから。中で待ちますか?」
 そのときかすかに、声が聞こえた。
「小倶那、シャンプー! 棚からとってってば」
 招き入れるように開かれたドアとは反対に、がっちり閉め出されたような気がした。入れるはずがない。
 ノートを手渡すと、真太智は会釈もそこそこに、立ち去った。
関連記事
コメント

管理者のみに表示