12/25 空色 金さびた×手を開く

2012.12.25.Tue.05:10


 うめくような、しわがれた自分の声で稚羽矢は目覚めた。
 身を裂かれるような痛みと、口の中に広がるねばねばした血の味に吐き気がする。
「目が覚めたか」
 つめたい声がした。
「寝ていろ。中途半端は迷惑だ」
 室にやってきた科戸王は、にらみおろしてきた。
「もう、いい。危ういところは、すぎた」
 血を吐きだすと、稚羽矢はこぶしで唇をぐいとぬぐった。
 狭也が連れ去れたとき、こみ上げてきた気持ちがなんなのか、稚羽矢はわかりかねた。あれくるう海そのものに自分がなったような、そんな心許なさ。それが怒りというものなのかもしれないと、科戸王の目を見て稚羽矢は思い当たったのだった。
「わたしは、たぶん・・・・・・怒っている」
 去りかけた科戸王は、顔だけふりむけた。
「あの人を守れなかったことがくやしい。許せないと、そう思う」
 王は沈黙のあと、目を細めて稚羽矢をにらんだ。そして、ただ片手をあげて出て行った。
 血のこびりついた手を開くと、狭也の勾玉を見たような気がした。
 あおい水の流れ、空の色。あたたかな命の鼓動する音が、聞こえてきたような気がした。
 耳をこらせば、それはずっと近くにあった。
 射抜かれた胸は、それでも静かに鼓動を打ち続けている。
(不死とは・・・・・・。神とはなんなのだろう)
 なぜ鳥や鹿や魚でなく、人の姿なのだろう。
(なぜ、わたしはこうして生きている?)
 耳の奥に、自分を呼ぶ声がよみがえった。
 見ていることしかできなかった。たくましい腕にいましめられ、いななく馬上で髪を振り乱して叫んだあの人。いちずに、こちらを見ていた目が忘れられない。
「狭也」
 取り戻さなければならない。必ず。
 稚羽矢はこぶしをきつく握りしめた。
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