12/23 白鳥 空腹×目つき

2012.12.23.Sun.04:07


 帰り道をみうしなった子どものようだ。
 腹を減らしてむずかる赤子でも、こんな情けない顔はしないだろう。
 菅流は小倶那をみかけてため息をはいた。たき火のそばに一人きり、腰を下ろした小倶那は、いまにも闇に溶けいりそうだった。
 心がかつえているのだ。からからに乾いて、乾いていることにすらも気づかない。
「それほど恋しいか」
 菅流はきいた。たき火の火明かりに照らされた小倶那の顔は、将としての昼間の様子とあまりに違う。いくらか戸惑うほどだった。
 部下には、けっして気取らせないのだ。弱さも、迷いも。
 ぽきんと枯れ枝をへしおり、小倶那はたき火にくべた。かるく息を吐き、目を閉じる。
「何か、言ったか?」
 身に負った傷はいつか癒える。でも、心のいたみは時がいやすとは限らない。ずっとずっと、望みを思い描き渇望しながら、地の底をのたうちまわり続けるつもりか。
「遠子をどうする気だ」
 遠子を見いだし、行軍に同行させるようになってから数日がたとうとしていた。寝床をともにしている様子もないし、へんに二人はよそよそしい。
「遠子」
 かすかに瞳が揺れる。
「どうしたらいいと思う」
「好きにしろよ。いやならあいつはそう言うだろう」
 小倶那は目を丸くし、それから小さく笑った。
「・・・・・・そうできたらいい」
 女がどう思うか、そんなことはそばに寄って目を見ればわかる。
 どんな危険があったとて、「来て」と言われれば訪ねていくまでだ。それが好きな女なら、なおさらだ。たとえ命が削れても、這ってでも。
「思いを遂げるのが本望なんだろう」
 菅流をちらと見て、小倶那は苦しげな声でつぶやいた。
「遠子は、ぼくの本望などより、大事な人だ」
(我慢強いにもほどがある)
 菅流はため息をはきだした。

 くらい夜空に、満月がのぼろうとしていた。
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