12/22 空色 満足×取り柄

2012.12.22.Sat.04:07


 彼が現れると、ざわめきはやみ、ただ静けさが訪れる。
 きざはしをふみしめる足音だけが、あたりに響く。
 御座に腰を下ろし、彼は人々をみつめる。
「春が来たな」
 どうということのない一言も、彼が口にすれば何よりの喜ばしい知らせとなる。
 開都王の最近の楽しみは、稚羽矢が御座にいるときの、威厳のある態度をみることだ。
「まだ夜は冷える。そなたらも」
 稚羽矢は、くしゃみをした。
「気をつけるといい」
 案ずる声とともに、ささやかな笑いがおこった。
 はじめのころ、稚羽矢は御座にいてもどうしたらよいのかわからないようだった。まなざしはどこかをさまよい、うつろだった。
 しかし、いつしかそれは変わったのだ。おそれひれ伏され、ときには親しみを惜しみなくうけるようにもなった。
 輝の御子とはいえ、稚羽矢はちがう。
 神の子でありながら、人に親しむこともできる。
 それは、なんと尊い美点なのか。



「狭也!」
 花が咲く。色とりどりの、何百、何千という花が。
 風が吹き、花びらを散らす。振り返った狭也は、うれしそうに笑みをこぼした。髪についたちいさなひとひらを、稚羽矢はつまみ取った。
 やがて、二つの影が、一つになる。
 かける想いの深さがすぐに見て取れるような包容だと、開都王はひとり笑いをこぼした。
 
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