12/20 白鳥 おどり舞う×青々

2012.12.20.Thu.04:07

 冷たく身を凍らせる風が遠ざかったと感じるようになると、七掬は故郷の山々を思い出す。まだ根雪はとけ残っているだろうか。

 顔を見せなくなった主が、なにかよからぬ計画を立てているらしいという話を聞く。人づてに耳にするのが、妙に不安をあおるのだった。
 冷静なようでいて、身を捨てることができるものをいつも探し求めている。
(それが大碓命というお方だ)
 七掬はつねづねそう思っているのだった。
(命を捨てる場所を、あの方はいつも探しておられるのではないか)
 日嗣の皇子だというのに、時々帰る場所のない渡り鳥のように空を飛びさすらっているようにも見える。
「ねぐらを見つけなさったのか」
 想いをかける相手と巡り会ったのだろうか。
 それならばいいが、相手にもよる。
 恋は危険だ。身を滅ぼすものにもなりうる、毒だ。
 空にはいっぺんのくもりもない。なのに、それがかえって不吉に思われて、七掬は眉をひそめた。
「七掬」
 考え事をしながら歩いていたせいか、声をかけられているのにも気づかなかった。
「聞こえぬのか?」
 本殿から西の房につづく渡り廊下のところに、皇子が立っていた。
 柱に身をもたせかけ、庭を眺めていたが、からかうようにこちらに顔を向けた。
「そのように物憂く、なにを考えていた。故郷のことか、それとも気にかかる人でもおるのか」
 あと少しでひざまづくところだった。
「小碓、か?」
 こくりとうなずく仕草に、七掬は深く息を吐いた。
「・・・・・・驚いたぞ」
 すこし離れたところからみると、立ち姿も、声音も皇子にそっくりだった。見分けられるのは、長く側仕えをしてきた者ぐらいだろう。
 小碓はかすかに笑った。ほめられて、しかしどう喜んだらいいかわからないといった風に、顔をしかめた。
「今日は山に行くのだよね」
「それはそうだが。まだ夜も明けたばかりだぞ」
 小碓は軒下をさした。いつのまに巣作りをしたものか、ツバメがせわしなく飛び回っている。
「ひなが飛ぶ練習をはじめたんだ」
 どこかあこがれがにじんだ声で、小碓は言った。
「もうじき、巣立っていくような気がして」 
 七掬は弟子をじっとみつめた。小碓はめざましい成長を見せた。かたいからを破り、種から芽が出るように。知識や技術を、与えれば与えるほど、おおきく強く賢くなっていくようだった。
 しかし、七掬にはどうあっても与えてやれないものがある。
 小碓はうらやましげに、ただ鳥の子をながめている。
 きっと、まなざしの追うところに本心があるのだろう。翼を得て、帰りたいところがある。そんな気持ちはおくびにも出さないが。
 ふと、七掬は小碓の背を強くたたいた。びっくりして目を丸くした少年に、笑いかける。
「早起きしたなら、ぐずぐずしていることもない。さあ、いくぞ」
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