12/18 薄紅 振る舞い×猫背

2012.12.18.Tue.04:07


 その日はもてなしの準備で朝から忙しかった。
 忙しいというのはいいことだ。
 変わっていくものを惜しむさびしさを、まっこうから見ずにすむ。
「はやいものね。あの子がお嫁にいくなんて」
 千種のしんみりした声音に、鈴はただうなずいた。
 息子と娘に恵まれて、それから何年たったことだろう。
 竹芝の土地への親しみは年をおうごとに深まっていく。ともに暮らす人たちと泣き笑いをするたび、鈴も竹芝の景色になじめるような、そんな安堵と心地よさがあった。

 ひるまえに、鈴は阿高をようやくみつけた。
 少し離れたところからみてみると、ひょろりとした阿高はあのころと変わらぬように見える。
「阿高」
 名で呼びかけると、はっとしたように阿高は振り返った。目の下にくまができている。
 ゆうべは何度も寝返りを打っていた。眠れなかったのかもしれない。
「さびしいの」
「うれしくはない」
 嫁にやるのが悲しいと、正直に言わないところが阿高らしかった。
「・・・・・・でも、さらわれるよりはましかな」
 顔を見合わせると、阿高はひきつった顔でほほえんだ。
「わかってるよ。情けないだろう。あいつが行くのは、となりの郡だ。一生顔を見られないわけじゃない」
 しょげた阿高を、鈴はなにも言わずにそっと抱きしめた。
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