12/17 白鳥 つみ取る×くちべに

2012.12.17.Mon.03:16
     

 赤い花びらを、しなやかな白い指でつまんで。
 娘たちは、やわらかな唇にべにをさす。


(なんだろう)
 ちがう、ということは、小倶那を不安な気持ちにさせた。
 遠子の笑顔がいつもとすこし変わっているような気がしたのだ。
「なに?」
 遠子は娘の頃のままの、高く結った髪を揺らしながら振り返って、ふしぎそうに首をかしげた。
「どうしたの、小倶那。こわい顔」
「今日、ぼくのいない間に何かあった?」
 返事が返ってくるまでの、すこしの沈黙ももどかしい。
「なにも、ないわ」
「本当に?」
 手を引いて間近で目を合わせると、遠子はすっと顔を背けた。
 おかしい。遠子はいつでもまっすぐに、こちらをみつめてくれるのだから。雪深いこの土地での暮らし方も、ようやくわかってきた。遠子と夫婦になってから、もう二年はたとうとしていた。
「やっぱり、へんかしら」
 伏せていた目を上げて、遠子はおそるおそるといった風に小倶那をみあげた。
 べに、だ。
 軽くひらいた唇が、色づいている。やわらかなくちびるのしわに、草花の赤い汁がしみこんでいる。頬にもうっすらとついているのがおかしくて、小倶那は笑った。
「ほうせんか、だね」
 言うなり小倶那は口づけをした。息を乱した人を見下ろしながら、小倶那はほほえんだ。
「べになど・・・・・・しないほうがよかったよ」
 こんなきれいな花を、つみとらずに見過ごせるわけがない。
「これだけではすまないよ、遠子」
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