12/16 空色 なおざり×荻の原

2012.12.16.Sun.05:16


 水の乙女がうしなわれてしまった。
 どこで、どう間違ったのか。
 人々の失望を思うと、気がふさぐ。氏族の大巫女としての役割を果たすことができなかった。
 なぜ、防げなかったのだろう。己に怒りを覚えるのは何度めか。
 岩姫は火で焼き尽くされた野原に立ち尽くしていた。
 人は、のちの実りを得るために野焼きをする。
(彼らにとっては・・・・・・)
 輝の御子が闇の人々を掃討しようとするのは、不要なものを排除し、あらたな豊葦原をつくりあげるために必要な仕事なのだろう。闇の氏族はじゃまな下草であり、燃やし尽くすのになんらためらいはあるまい。
 風の中、呼んだ名は応える声もないまま消えていった。
 闇の娘として生まれたことを、あの乙女は悔いていただろうか。
 焼け残った荻の葉が、風に揺られてさびしい音をさせた。
 水の乙女は、輝の宮で死んだ。
 みずから命を絶ったのだという。
「岩姫さま、開都王さまがお呼びです」
 かたい声が響いた。
 ひょろりとした細身の少年がそこにいた。名はなんといったか。
 たしか、科戸彦だ。
 輝の軍勢にかれの里は焼かれ、女子どもにいたるまで皆殺しにされた。ほかの者たちのぶんまで生きよ、岩姫はいつだったかそう語って聞かせた。
 今日このとき、同じことを言ってやれるだろうか。
 一族を率いるべき水の乙女がみずから命を捨てたということは、氏族を見捨てたに等しいことではないのか。
「乙女は・・・・・・姫さまは、死んだのですか?」
 行きかけて、岩姫は立ち止まった。幼さののこる面に、しかし悲しみはなかった。ただ、燃え立つような憤りだけがある。この子は、怒りだけでこうしてここに立っている。一族をむざんに殺された今、胸を占めているのはおそらく復讐心だけだ。
「また、すぐに戻るだろう。それがさだめなのだからね」
 言葉がこれほど頼りなく響いたのは、おそらく初めてだ。
 岩姫は若者の目にうつる落胆を見て、そうして、唇をつぐんだ。
関連記事
コメント

管理者のみに表示