12/15 薄紅 水際×奉仕

2012.12.15.Sat.05:18
 水音が聞こえて、阿高は足を止めた。
 蝉が鳴く音が、わんわんと耳の奥でこだまして、いっそう暑さと気だるさを煽るようだ。
 川ぞいの道を通っていこうと思ったのは、すこし遠回りだがそのほうが涼しそうだと思ったからだ。
 だれかいる。
 阿高は木のかげに身をひそめ、目をこらした。
 ぱしゃぱしゃと水をはね散らす音とともに、白いからだが丈高い草のすきまからのぞいた。
 髪をとき、着物をほっぽってこんなところで水浴びなど、無防備すぎる。
(あいつ)
 髪はあんなに長かっただろうか。日をためた黒髪が、重たげに肩にかかっている。むき出しになった背中のしろさが、まぶしいほどだ。かすかに横顔が見えて、目を伏せたそのもの思わしげな様子に、胸がひとつ大きく鳴った。草いきれに酔いそうだ。
 阿高はため息を吐いた。
 誰が通るかもわからないのに。
 しかりつけようとして、阿高はやめた。

 きびすをかえし、阿高は道に立った。ほんのわずかな憩いのときだ。とがめるのは、あとでいい。
(番でもしてやるか)
 蝉の声が響き、木漏れ日がゆれる。楽しげにはねる水音。
 阿高は苦笑しながら、木のみきに背をあずけた。
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