12/13 空色 舌打ち×海の底

2012.12.13.Thu.03:55


 照日王は舌打ちをした。
 しょうこりもなく、末の弟は夢の中に遊んでいる。

 目の前にいるのは、弟であって、弟ではない。
 衣手を我が身に巻き付けるようにして、おびえた目でこちらをみている。瞳はうつろだ。ただ我が身に起こったことに動転し、惑乱し、息を浅くして縮こまっている。
(おぞましい)
 稚羽矢が夢見ることを禁じることはできない。
 腕を戒めても、足をつないでも、あこがれでる魂を止めることはできないのだ。
 そこしれぬものを弟に感じる。はっきり言えば、理解できない。
 なぜ、我が身を捨てて小さな虫けらなどになれるのだ。
 なぜ、輝の御子である我が身をかえりみず、夢などみてばかりなのだ?

 稚羽矢が目覚めるまで、照日王はじっと弟をみつめていた。
 髪をふりみだし、ふいに横たわった稚羽矢は、やがてむっくりと身を起こした。ぼんやりと室を見回し、やがて目が合うとそっと口を開いた。
「おいででしたか」
 間の抜けた声を聞くと、叱ってやろうという気も失せる。
「何の夢を見ていた。飛ぶ鳥にでもなったか」
「いいえ・・・・・・大きな魚になりました」
 夢を語るとき、稚羽矢の声には生気がやどる。
「海の底をみたいと願ったのです」
「海か。はろばろとしていたか」
 稚羽矢は首を傾げた。
「どこまでも行けそうでした。どこまでも」 
 うっとりした声音に、ふいに激しいいらだちがかき立てられる。
 どこに行くというのだ。父の命令にそむき、取るに足らぬ夢など見続けて。
「よいか。二度と夢などみてはならん。二度とだ」
 照日王は厳しい声で言いつけると、うろのようにすんだ弟の瞳から目をそらした。
 
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