12/12 薄紅 髪の毛×高砂草

2012.12.12.Wed.04:54
夏のはじめは、木々の緑もきゅうに濃く鮮やかになるような気がする。
よく晴れた日、野に出た阿高はうしろから追ってくる鈴を振り返って眺めた。
色のあせた着物と、茶色い染め帯。里の女たちと変わらぬ装いだったが、阿高にはずいぶんちがってみえる。
いつだったか、気になって藤太に聞いたことがある。

 「なあ、目立ちすぎていないか?」
 「何が」
 「鈴だよ」
  ほかにだれがいると言うのだろう。藤太は吹きだすと、やけに意味深に笑った。
 「いつも目に付いてかなわない。遠くにいても、すぐにあいつだとわかるんだ。これは、どう考えても目立っているということだろ?」
 「そうでもないよ。鈴はうまくやってるし、なじんでもいる」
  藤太は耳元でこっそりとこうつぶやいた。
 「鈴だから、目につくんだろう」
 
 起伏のある野には、うす紫の敷物がのべられたようだった。
 ふちが淡い紫色で、まんなかが白い小ぶりな花は、歩くたびに足をこそばゆくかすめる。
「阿高!」
 追いついた鈴は、頬をそめて息を切らしていた。
 なんとなく顔を見られない。目をそらしたとき、髪に花がついているのをみつけた。
「なに?」
 さっき寝転がったとき、きっと乱れ髪に残ったのだ。
 手をのばしかけたが、思い直してつけたままにしておく。
「阿高」
 ほほえみに、胸がなる。さっき思いのたけを明かしたはずなのに、まだほしい。
(おまえだから)
 阿高は、ぎこちなく笑み返した。
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