夏のはじめは、木々の緑もきゅうに濃く鮮やかになるような気がする。
よく晴れた日、野に出た阿高はうしろから追ってくる鈴を振り返って眺めた。
色のあせた着物と、茶色い染め帯。里の女たちと変わらぬ装いだったが、阿高にはずいぶんちがってみえる。
いつだったか、気になって藤太に聞いたことがある。
「なあ、目立ちすぎていないか?」
「何が」
「鈴だよ」
ほかにだれがいると言うのだろう。藤太は吹きだすと、やけに意味深に笑った。
「いつも目に付いてかなわない。遠くにいても、すぐにあいつだとわかるんだ。これは、どう考えても目立っているということだろ?」
「そうでもないよ。鈴はうまくやってるし、なじんでもいる」
藤太は耳元でこっそりとこうつぶやいた。
「鈴だから、目につくんだろう」
起伏のある野には、うす紫の敷物がのべられたようだった。
ふちが淡い紫色で、まんなかが白い小ぶりな花は、歩くたびに足をこそばゆくかすめる。
「阿高!」
追いついた鈴は、頬をそめて息を切らしていた。
なんとなく顔を見られない。目をそらしたとき、髪に花がついているのをみつけた。
「なに?」
さっき寝転がったとき、きっと乱れ髪に残ったのだ。
手をのばしかけたが、思い直してつけたままにしておく。
「阿高」
ほほえみに、胸がなる。さっき思いのたけを明かしたはずなのに、まだほしい。
(おまえだから)
阿高は、ぎこちなく笑み返した。
よく晴れた日、野に出た阿高はうしろから追ってくる鈴を振り返って眺めた。
色のあせた着物と、茶色い染め帯。里の女たちと変わらぬ装いだったが、阿高にはずいぶんちがってみえる。
いつだったか、気になって藤太に聞いたことがある。
「なあ、目立ちすぎていないか?」
「何が」
「鈴だよ」
ほかにだれがいると言うのだろう。藤太は吹きだすと、やけに意味深に笑った。
「いつも目に付いてかなわない。遠くにいても、すぐにあいつだとわかるんだ。これは、どう考えても目立っているということだろ?」
「そうでもないよ。鈴はうまくやってるし、なじんでもいる」
藤太は耳元でこっそりとこうつぶやいた。
「鈴だから、目につくんだろう」
起伏のある野には、うす紫の敷物がのべられたようだった。
ふちが淡い紫色で、まんなかが白い小ぶりな花は、歩くたびに足をこそばゆくかすめる。
「阿高!」
追いついた鈴は、頬をそめて息を切らしていた。
なんとなく顔を見られない。目をそらしたとき、髪に花がついているのをみつけた。
「なに?」
さっき寝転がったとき、きっと乱れ髪に残ったのだ。
手をのばしかけたが、思い直してつけたままにしておく。
「阿高」
ほほえみに、胸がなる。さっき思いのたけを明かしたはずなのに、まだほしい。
(おまえだから)
阿高は、ぎこちなく笑み返した。
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