12/11 白鳥 もっと×水草

2012.12.11.Tue.09:50


蓮の花は昼にひらき、夕方にしぼむ。
ため池に咲いた花をみようと、たしか遠子が言い出したのだ。
大きくしなやかな花びらの真ん中に、こがね色の台座がおさめてあるように見える。
「わたしたち、大きすぎるわね」
 ふと池のきわにしゃがみこんだ遠子が言った。
「虫くらいに小さかったら、この金色の寝台で眠れそうなんだもの」
「遠子は寝相がわるいから、きっと落ちるよ」
 頬をふくらませ、遠子はにらんできた。
「じゃあ、小倶那も一緒におちるのよ。おきのどくさま」



 ふと子どもの頃のことを思い出したのは、蓮を目にとめたからだ。
 東への行軍中、忙しさに追い立てられるようで花など気にかける余裕もなかった。湿地つづきの土地へでてからというもの、蓮の群生がところどころにあることに気づいた。まもなく目的地が近く、案ずるような敵の脅威もない。
 泥沼から大振りの見事な花を咲かせる蓮は、天上の花のようだ。
 うつくしく、清らかで、しかし手を触れてみるのはためらわれた。
 三野での思い出が、もう二度と取り戻せないものだと思い知らされるのがおそろしいのだった。
(わかっている)
 遠子の青ざめた顔が思い出された。
 目と目を見合わせた瞬間に、とりつくろうことなどできないことを悟った。遠子が慕わしくてたまらなかった。この苦しみを終わらせてくれるのが遠子ならば、どんなに幸せなことだろうと、心から思った。
 望んでしまう。もっと、そばにと。それが臆病でいやしい願いだったとしても。
(ぼくのいる地の底へ、きみを引きずり込むことになっても)
 恥ずべき願いだ。
小倶那はため息をついた。
「おきのどくさま」
 遠子のからかうような声が、聞こえたような気がした。
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