蓮の花は昼にひらき、夕方にしぼむ。
ため池に咲いた花をみようと、たしか遠子が言い出したのだ。
大きくしなやかな花びらの真ん中に、こがね色の台座がおさめてあるように見える。
「わたしたち、大きすぎるわね」
 ふと池のきわにしゃがみこんだ遠子が言った。
「虫くらいに小さかったら、この金色の寝台で眠れそうなんだもの」
「遠子は寝相がわるいから、きっと落ちるよ」
 頬をふくらませ、遠子はにらんできた。
「じゃあ、小倶那も一緒におちるのよ。おきのどくさま」



 ふと子どもの頃のことを思い出したのは、蓮を目にとめたからだ。
 東への行軍中、忙しさに追い立てられるようで花など気にかける余裕もなかった。湿地つづきの土地へでてからというもの、蓮の群生がところどころにあることに気づいた。まもなく目的地が近く、案ずるような敵の脅威もない。
 泥沼から大振りの見事な花を咲かせる蓮は、天上の花のようだ。
 うつくしく、清らかで、しかし手を触れてみるのはためらわれた。
 三野での思い出が、もう二度と取り戻せないものだと思い知らされるのがおそろしいのだった。
(わかっている)
 遠子の青ざめた顔が思い出された。
 目と目を見合わせた瞬間に、とりつくろうことなどできないことを悟った。遠子が慕わしくてたまらなかった。この苦しみを終わらせてくれるのが遠子ならば、どんなに幸せなことだろうと、心から思った。
 望んでしまう。もっと、そばにと。それが臆病でいやしい願いだったとしても。
(ぼくのいる地の底へ、きみを引きずり込むことになっても)
 恥ずべき願いだ。
小倶那はため息をついた。
「おきのどくさま」
 遠子のからかうような声が、聞こえたような気がした。
関連記事
 

 

 

Comment

 

Secret?


 

 

 

 

*Template By-MoMo.ka* Copyright © 2017 しろたえ日記, all rights reserved.

りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


シンイの二次小説をお探しの方は、下のリンクからどうぞ!
シンイ



『オロチの娘~妻問いの夜』
いるかネットブックス
※電子書店パピレスより発売中です。
1-203328-c200.jpg



乙女のぐっとくるお話を追求する官能部
http://p.booklog.jp/book/57289部誌その1
http://p.booklog.jp/book/80593部誌その2


kaminomaeをフォローしましょう

絵本関係 (4)
二次創作まとめ (27)
空色勾玉 二次 (99)
拍手お礼 (246)
日記 (35)
妖怪検定 (4)
一次創作まとめ (16)
白鳥異伝 二次 (31)
薄紅天女 二次 (30)
現代勾玉 (14)
勾玉の本 (20)
千と千尋の神隠し (26)
勾玉まつり (28)
未分類 (13)

このブログをリンクに追加する

この人とブロともになる

QR