12/10 空色 毎日×見捨てられ

2012.12.10.Mon.09:53


 どん、どん。
 どん、どん、どん。

 腹に響くような太鼓の音に、稚羽矢は顔を上げた。
「なんだろう」
 鳥彦が飛んできて、欄干にとまった。
「まつりの太鼓だよ。今年は盛り上がるだろうな」
「まつり・・・・・・それでか」
 なぜか身の回りがあわただしくなったと思っていた。狭也も準備でいそがしくなり、顔を合わせることもなかった。仕方ないことと思いながらも何となくおもしろくなく、稚羽矢は唇をまげた。
「迷子みたいな顔だ」
 鳥彦がおかしそうに笑った。



 まつりの夜、そこかしこで燃えさかる篝火に照らされて、人々の顔はまぼろしのように華やいでみえた。太鼓の音にせき立てられるように、稚羽矢は青草を踏みしめてあちこちを探した。
 人々にたずねても、誰もしらないのだった。おのが求める人のまなざしを追うのに夢中で、酒の酔いに身をまかせるのに熱心で、稚羽矢の問いかけなどだれも聞いていないのだ。
 稚羽矢は杉の木に背をあずけ、うなだれた。みずらに挿した花がおちてこぼれたが、どうでもよかった。
「狭也」
 ふと、手を取られた。顔を上げると、探し求めていた人が、にっこりと笑っている。
「稚羽矢。ずいぶん探したのよ」
 柔らかい手が、稚羽矢のほほに触れた。
「わたしだって」
 目をみあわせて、笑いあう。
 ふたつの影がかさなると、夏のまつりの夜がふけるまで、離れることはなかったのだった。
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