12/8 白鳥 ふるさと×梅の花

2012.12.08.Sat.04:59
「こら、何てことをするの」
 遠子は大声をあげた。
 だれかが紅梅の枝を折ったところに、ちょうど居合わせたのだ。
 首根っこをつかまれた童は、折り取った梅をつかんだまま、こちらをにらんできた。
「すこし拝借するだけだ」
 遠子はみるみる顔を赤くして、目を吊り上げた。
 むりもない。この梅は一族の人々が大切に守っているものなのだ。傷つけたり、折ったりなんてしたら、どれだけ叱られるかわからない。
「拝借ですって」
 悪いことに、折りあとが目立つ部分だ。
「もとには戻せないのよ。いちどそんなことをすれば、取り返しがつかないの」
 童は、遠子のけんまくから逃れるように、小倶那の背にまわりこんだ。
「梅どろぼうを、かくまうつもり?」
 見知った顔だが、悪さをするようにも見えない。なにか理由があるのかもしれない。
 小倶那は、童と向き合ってたずねた。
「それを、どうするの?」
 唇をきつくかみしめていた子は、早口で言った。
「今年の梅を、もう見られないかもしれない」
「どういうこと」
「母ちゃんが……。この梅が好きなのに。寝床から出られなくて」
 さいごは涙声だ。遠子と小倶那は、顔を見合わせた。



 こっぴどく叱られたうえ、晩飯ぬきを言い渡された二人は、ずいぶん時刻もはやいのに、おとなしく寝床にもぐりこんだ。
「小倶那まで一緒にしかられることはなかったのに」
「べつにいいよ」
 遠子は、布団にもぐりこんだが、寝付けないようだ。腹の虫が、きゅうきゅう騒いでいる。
「おなかすいたね」
「言わないで。もっとすくような気がするわ」
「梅の枝、どうなったかな」
 食べられなかった晩飯のことよりも、そっちのほうが気にかかる。
 梅の枝を、あの子は母親に見せてやれただろうか。
 母親は、喜んだだろうか。
「ねえ、遠子。どうしてあの子のつみを着たの」
 向こうをむいたまま、遠子は言った。
「今頃、母親からひどく絞られているわよ。あの梅は、みんなの宝ですもの。それでも、よその大人から叱られるより、母親から叱られたほうがましでしょう」
 小倶那は、泣いた子の顔を思い出した。
 母を想って泣くというのは、どんな気分なのだろう。
 空腹をまぎらわそうと、小倶那はそんなことを考え始めた。
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