12/7 空色 夕暮れ×まちがえる

2012.12.07.Fri.04:59
「稚羽矢?」
 どこをさがしても、いない。
「どこに隠れたのかしら」
 さきに腹を立てたのは狭也のほうだった。
 でも、しばらくたつとどうして怒っていたのかすらも忘れてしまったのだ。
 稚羽矢を探そうにも、たよりになる鳥彦は開都王の言いつけで遠方へ行っている。忙しそうに走り回る侍女を呼び止めるのも気が引けた。
「あなた?」
 やぶががさり、と動いたのに声をかけると、すずめが飛び立った。
 稚羽矢が髪に葉っぱをつけて、飛び出してきたことがあることを思い出して、狭也は吹きだした。
「大王はおいでになった?」
 槌の音がひびく作業場に行ってたずねても、皆は首を横に振るばかりだ。
 太い柱を柱石に据える様子を、目を輝かせてみつめていた稚羽矢の顔を思い出して、狭也はほほえんだ。
「稚羽矢!」
 歩きつかれて、とほうにくれて、狭也は池のふちにしゃがみこんだ。
 すでに日は暮れかけていた。つめたい風が体を撫でていく。
 ふと、あたたかな襲が肩にかけられたのに気づいて、狭也は振り返った。
「あなた、どこにいたの?」
 だいぶきまりが悪い思いをしたのは、科戸王と目が合ったからだ。
「こんなところで何をしている。まもなく日も暮れるぞ」
「探していたのです」
「ご苦労だったな」
 手を貸して王は狭也を立たせると、片ほほをゆがめるようにして笑った。
「せっかくの一日を、むだに過ごしたのではないか。よく休めもしなかったろう、こんな日など、めったにないというのに」
 狭也は笑った。
「いいえ、むだではありません」
 稚羽矢を探しながら、久しぶりにすみずみまで宮を歩いた気がする。見知らぬ顔がたくさんあった。色々な声を聞くこともできた。
「よい一日でした。迎えも来て下ったし。おなかがすいたわ」
「稚羽矢でなくてわるかったな」
 空耳かとも思えるほどのつぶやきを、狭也はとりこぼすことなく拾うことができた。
 先に立って歩く人の、長くのびた影を踏みながら、狭也は忍び笑いをした。
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