「これは秘密だけどな」
 藤太が打ち明けたことに、鈴は目を丸くした。
「まあ!」
 鈴は洗濯物を急いで片づけ、千種を探しに走った。
 息を切らせてやってきた鈴を、千種は驚いて見つめかえした。
「どうしたの? そんなにあわてて。何かあったの」
 鈴は唇をかみしめ、つばをのみこんだ。あたりを見回し、誰もいないのを確かめると、千種をてまねきして耳元でささやいた。
「阿高が、大変なの」
 千種は息をのんで、かごを取り落とした。
「なんてこと。急ぎましょう」
 菜をあらっていた美郷は、二人が駆けてきたのをみて、目を丸くした。
「どうしたの……なんですって、阿高が? 大変だわ」
 鈴は泣きそうな顔で、うつむいた。
「変だとは思っていたの。阿高はさいきん、口もきいてくれないし。きっと、きっと、飽きてしまったんだわ」
「大丈夫」
 千種はぎゅっと鈴の手を握った。
「阿高はそんな人じゃないわ」
「本当なら、きつくとっちめてやるから、安心なさい」
 美郷が胸を叩いた。

「よくも平気な顔ができたものだな」
 飯時にとうとつに箸をおいた総武は、阿高をじろりとにらんだ。
「なんのことか……」
 つめたい視線にさらされても、阿高はまったく平然としていた。
「鈴がここへ来て五回春が巡ってきた」
「五回か。案外はやかったな」
「おまえは、さらうほど恋しい妻を、ほっぽって何をしておるのだ」
「ほっぽって……?」
 阿高は鈴をちらと見て、不機嫌な顔つきになった。
「おれがいつ、おまえを放っておいたって言うんだ」
 冷たい声が響いた。鈴は顔を赤くし、箸を持つ手をふるわせていたが、きっと顔をあげてこう言った。
「ないしょでどこへ出かけているの?」
 阿高は言葉につまった。
「早くはけ」「楽になるぞ」面白がるようなはやし声が飛び交ったが、阿高が一つうなずくと、みなは息を呑んでなりゆきを見守った。
「もうすこし黙っていたかったのに」
「はっきり言って。わたくしに飽きたのだって」
 目を大きくして、阿高は吹きだした。それから、皆を見回して、こんどは声を立てて笑い出した。
「子馬だよ。びっくりさせてやろうと黙っていたのに」
「なーんだ」
 のんきにひざを打った藤太が、こんどは責め立てられる番なのだった。

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りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


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