12/4 空色 現れる×ふね

2012.12.04.Tue.04:07
「稚羽矢、何をしているの」
「空を見ていた」
 稚羽矢はふりかえった。
 秋のはじめの野は静かで、広々としていた。足下に咲く黄色い花が、吹く風に揺られている。
「雲に影ができているのがおもしろくて」
「高いところにある雲が、低いところにある雲に影をつくるのね」
 雲がときおり日をかげらせる。
 日はさながら、雲海にただよう玉のようだ。日差しに狭也は目を細めた。
「あの形、舟みたいだと思わないか、狭也」
「舟・・・・・・そうね」
 そう見えないこともない。
「舟に乗って、どこかへいきたい。誰もいないところへ」
「ひとりで行くの?」
 稚羽矢は、目をみはった。
「あなたも行くか?」
 手をとり、嬉しそうに稚羽矢は笑った。
「どこまでも流れていけそうだね」
 水をさすような咳払いが響いた。見なくともわかる。科戸王だ。
「そなた一人で流れていけ。喜んで送り出してやる」
 稚羽矢は気にする風もなく、狭也の髪に花を挿した。
「ひとりは、よそう。狭也のいないところにいっても、しかたない」
関連記事
コメント

管理者のみに表示