12/3 薄紅 手足×言い換えると

2012.12.03.Mon.04:07

「阿高、危ないことはやめて」
 大人三人でも抱え込めないようなイチョウの大木に登った阿高に、鈴は大声で呼びかけた。
「藤太だって、反省しているのだから、機嫌を直して降りてきてちょうだい。だれも阿高がこわがりなんて言っていないわ」
 ややして、すねたような声とともに黄色い葉陰から阿高が顔を出した。
「・・・・・・鈴はおれをそんな小心者だと思っていたんだな」
「もう、いいから降りてきて」
「うやむやにする気か?」
 鈴は目を潤ませた。
「阿高のことだったら、何でも知りたいの。どんな些細なことでも。それが気に障ったのなら、あやまります」
 頭にぽとんと何かが落ちた。しなびた木の実だ。
「残さず拾えよ」
「ぎんなん……」
 どんどん落ちてくる実を、拾い集めるかごもなかった。
「言ってくれれば、かごを持ってきたのに」
 もくもくと実を拾っていると、ここに何をしにきたのか忘れてしまいそうだった。
 だいぶ集まった。山になった実を眺めていると、阿高は危なげなく木から下りてきて、鈴の前に立った。
「うまいけど、食いすぎると手足がしびれる」
 ほっとして笑いかけると、ほっぺたをつままれた。
「いた!」
「腹がたつのは、その笑い顔だ。誰にでもにこにこするんじゃない」
 別件ですねていたのだと、阿高は白状したも同じだった。きっと昨日、屋形まで若衆に荷を持ってもらったことを怒っているのだ。そのとき、打ち解けて話をしているようにでも見えたのだろうか。
「親切な人よ。帰り道が一緒になっただけで、よい機会だから昔話をねだったの」
「で、おれのことをだしにして笑っていたと言うわけか」
「まあ!」
 鈴は頬をふくらませた。
「阿高のことをきくのなら、藤太より詳しい人はいないわ。わたくしがあのとき話していたのは、あなたのことじゃありません」
「じゃあ、なんだよ」
「内緒」
 背にくくっていたざるにぎんなんを入れ終えた阿高は、すっきりしない面持ちでうなった。
「もういい。帰ろう」
 鈴は帰り道にぽつりと言った。
「手や足のことを、だれかれかまわず言いふらしたりしないわ」
「どういうことだよ」
「体の一部だもの」
 阿高は、ため息をついた。
「なんだ、はやくそう言え。じれったいやつだな。おれがそんなに好きか」
「ちがいます!」
 赤面して叫ぶ鈴。
「どうちがうんだ」
「もういい、帰りましょ」
 反対に腹をたてた鈴を、阿高は笑いながら追いかけた。
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