12/2 白鳥 正直×ひるまえ

2012.12.02.Sun.06:31

「あー、もう食べられない」
 遠子はげっぷをした。
「遠子、食べ過ぎだよ。あとでおなかが痛くなるよ、たぶん」
「そういう小倶那こそ、もっとがんばって食べたらよかったのに。年に一度よ。あんなごちそう」
 遠子は目を細めた。
「ねえ、昼寝をしよう。なんだか眠くなっちゃった」
 小倶那は、案じるように言った。
「まだひるまえなのに。このまま寝たら太るよ」
「もう、うるさい」
 正月の楽しみは、縁者をもてなすためのご馳走にあるといっても過言ではない。
 肉汁のよくでたあつもののことを思い出して、遠子は幸せな気分になった。
「遠子、あっちに行こう」
 小倶那はゆううつそうにため息をついた。松林のところで、子どもたちが泥を投げ合って遊んでいるのをみつけたのだ。見れば小倶那にしつこくからんでくる悪がきの一団もいる。遠子は腕まくりをした。
「遠子?」
「日ごろの恨みを晴らすときよ、小倶那」
 大きらいな蛇を背中に入れられた日は、うなされて眠れなかった。
 あのいたずらを遠子は小倶那よりも怒っていたのだった。
「やめようよ」
「いくじなしね」
 すそをからげて団子を作り始めた遠子を、げんなりした顔で小倶那はみつめた。正月用に仕立てた衣に、はやくも泥はねがついている。あとでどんなに母に叱られるか。
 えいっ! 掛け声もいさましく投げた泥団子は、みごとに誰かの背に当たった。
 ゆっくりと振り返ったのは、押熊だ。
「ああ、やっちゃった」
「命中!」
 はしゃげる遠子がうらやましい。
「いい度胸だな、小倶那」
「……ぼくじゃない」
「うるさい、泥まみれにしてやるから覚悟しろ」
「はやくはやく、小倶那、やらないとやられるわよ」
 遠子ののんきさには負ける。きっと、腹ごなしくらいにしか思っていないのだろう。
 新年から振り回されっぱなしだ。
 それでも、遠子がいるから面白い。
 顔に泥をはりつけながら、小倶那は足元の泥をかきあつめた。
関連記事
コメント

管理者のみに表示