呼び止められて振り返った狭也は、見慣れぬ女子生徒をまえにして目を丸くした。くせのない真っ黒なストレートの髪は、背中まである。白い顔に大きな目、ほほえんだ唇をしている。気後れするくらいだった。
「あの・・・・・・」
「狭也」
 聞き慣れた声に、狭也は思わずじっとその人を見つめた。
「わたしだよ。わからないの?」
「ち、稚羽矢なの」
「うん」
「うんって、どうしてそんな格好をしているの」
 うわずった声で狭也は言い、手を引いて廊下のはじに身を寄せた。
「うーん」
 首を傾げる仕草さえ、かわいらしい。整った顔立ちをしているということはわかっていたけれど、女装がここまで板に付いているとなると、産まれてこの方女子を名乗っている自分が恥ずかしくなるくらいだ。
「わからないけど、こうすれば狭也が喜ぶといわれて」
「誰にそう言われたの」
 なんとなく、想像はつく。
「すが」
 稚羽矢が言いかけたちょうどそのとき、廊下の向こうから走ってくる人がいた。生徒の間を器用にすり抜け、菅流は二人の前で立ち止まった。
「ここにいたか。ほら、戻るぞ」
 稚羽矢の腕を無造作に引くが、このままいかせるわけにはいかない。
「やっぱり。先輩ですね。稚羽矢にこんなことをするなんて」
 三年とはいえ、親戚でもある菅流は兄のような存在だ。
「聞いていないのか?」
 菅流はにやりとした。
「こんどの文化祭で、学校いち女装が似合う男子をだな・・・・・・」
 稚羽矢の手を引いて、狭也は歩き出した。そんな妙な催しに稚羽矢をだすわけにはいかない。本人がよくよく承知しているのならまだしも、自分が何をしているのかもイマイチよくわかっていない稚羽矢に女装をしいるなんて、あまりに人が悪い。
 狭也は稚羽矢をかばうように立って、菅流を睨みあげた。気圧されたように菅流は顔を引いた。
「だめです」
「どうして」
「だめなものは、だめです!」
 菅流は唇をゆるめた。
「狭也は稚羽矢を独り占めしたいんだな」
「そういうことじゃないわ」
 稚羽矢のほうをちらりと見ると、彼はじっと狭也を見返した。
「狭也?」
「そ、そういうことじゃありません!」
「そういうことって、どういうこと」 
 咳払いをした菅流は、声を潜めた。
「おまえが大好きなんだと」
 頬がかっと熱くなった。背をむけかけた狭也の腕を、稚羽矢がつかんだ。
「狭也、待って。わたしは、どうしたらいい? 狭也が気に入らないなら、やめるよ」
 菅流の落胆の声が聞こえたが、かまう余裕はなかった。
 振り返ると、稚羽矢は困ったように眉をよせていた。
(稚羽矢・・・・・・)
 たしかに、かわいい。そして、うつくしい。
 かわいい人はたくさんいるけれど、うつくしさも兼ね備えているとなると、そうはいない。狭也の目の前にいる女子は、百人が百人とも文句をつけないだろう完璧な美少女だ。
(稚羽矢が優勝しないわけがない)
 彼に出てほしくないと思うのは、菅流の言うとおり、稚羽矢が大勢の人に注目される機会から遠ざけたいというわがままなのかもしれない。
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りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


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