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影ふみ4

Category薄紅天女 二次
 丘の上までやってきたとき、見慣れた人が草の上に座っているのを見て、鈴は思わず立ち止まった。
 顔を振り向けた人は、あきれたように鈴をみつめていた。
「おせっかいと、言われなかったか?」
 阿高は背伸びとあくびをいっぺんにしながら、たずねた。
「ほうっておけと言ったのに」
「阿高はわかっていたの?」
 なにが、とも、そうだ、とも言わず、阿高はほほえんだ。
「時機がこなければ、実らないものもある。番外が気にしなくても、本人たちはうまく立ち回るものだよ」
 ずいぶん腹立たしい思いがした。阿高はまるで、何もかもをはじめから承知していた風だ。
「これからも、いろいろ乗り越えることはありそうだぞ。嫁取りするにしても、男の方の母親が大反対しているようだから。そんなのが姑になったら、苦労する」
 阿高は全く興味のないふりをしながらも、きっと鈴が気にかけていることを知って調べてくれたのだろう。
「あの人が、他人のように思えなかったの。ねえ、阿高。あの人はとても寂しそうで、それに何かを思い煩っているみたいに見えたから」
 阿高は何もいわなかった。
「この世で一人きり、取り残されたような気分でいたとき、わたくしのもとにはあなたが来てくれた。どんなにうれしかったか、あなたにはわからないでしょうね」
 素直に阿高はうなずいた。
「おまえこそ、わからないだろう。おれがああして忍んでいくまで、どれだけ悩んだり迷ったりしたか。おまえを苦労させるかもしれないと、悔やませるかもしれないと思うと、平気ではいられなかった」
 初めて聞くようなことだった。鈴は顔が熱くなるのを感じながら、それでも勇気をふりしぼって阿高をみつめた。
「おまえが蹴り出した、あいつが気の毒だよ。でも、まあよかったのかもしれないな。ぐずぐずしているのはもどかしいし」
「阿高も迷ったりするのね」
「おれだって人の子だ。迷うよ。迷ってばっかりだ」
「わたくしは、迷わないわ。阿高より上等ね」
 肩をすくめた阿高は、おかしそうに笑った。
「好きだもの。いじわるなのも、けちなのも、すぐ怒るのも、みんな好きよ、阿高。あなたはこれほどじゃないでしょう?」
 阿高はかかえていた平包みをとりあげて、あいた方の手でそっと鈴を抱き寄せた。
「どれほどのものか、おれにもわからない。けど、おまえのことがこの世で一番気にくわないと思えるときも、まあよくある」
「どういうこと。わたくしのことが嫌いなの」
 鈴の耳元に、からかうような声が低くひびいた。
「好きだということだよ、悪いか?」
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