丘の上までやってきたとき、見慣れた人が草の上に座っているのを見て、鈴は思わず立ち止まった。
 顔を振り向けた人は、あきれたように鈴をみつめていた。
「おせっかいと、言われなかったか?」
 阿高は背伸びとあくびをいっぺんにしながら、たずねた。
「ほうっておけと言ったのに」
「阿高はわかっていたの?」
 なにが、とも、そうだ、とも言わず、阿高はほほえんだ。
「時機がこなければ、実らないものもある。番外が気にしなくても、本人たちはうまく立ち回るものだよ」
 ずいぶん腹立たしい思いがした。阿高はまるで、何もかもをはじめから承知していた風だ。
「これからも、いろいろ乗り越えることはありそうだぞ。嫁取りするにしても、男の方の母親が大反対しているようだから。そんなのが姑になったら、苦労する」
 阿高は全く興味のないふりをしながらも、きっと鈴が気にかけていることを知って調べてくれたのだろう。
「あの人が、他人のように思えなかったの。ねえ、阿高。あの人はとても寂しそうで、それに何かを思い煩っているみたいに見えたから」
 阿高は何もいわなかった。
「この世で一人きり、取り残されたような気分でいたとき、わたくしのもとにはあなたが来てくれた。どんなにうれしかったか、あなたにはわからないでしょうね」
 素直に阿高はうなずいた。
「おまえこそ、わからないだろう。おれがああして忍んでいくまで、どれだけ悩んだり迷ったりしたか。おまえを苦労させるかもしれないと、悔やませるかもしれないと思うと、平気ではいられなかった」
 初めて聞くようなことだった。鈴は顔が熱くなるのを感じながら、それでも勇気をふりしぼって阿高をみつめた。
「おまえが蹴り出した、あいつが気の毒だよ。でも、まあよかったのかもしれないな。ぐずぐずしているのはもどかしいし」
「阿高も迷ったりするのね」
「おれだって人の子だ。迷うよ。迷ってばっかりだ」
「わたくしは、迷わないわ。阿高より上等ね」
 肩をすくめた阿高は、おかしそうに笑った。
「好きだもの。いじわるなのも、けちなのも、すぐ怒るのも、みんな好きよ、阿高。あなたはこれほどじゃないでしょう?」
 阿高はかかえていた平包みをとりあげて、あいた方の手でそっと鈴を抱き寄せた。
「どれほどのものか、おれにもわからない。けど、おまえのことがこの世で一番気にくわないと思えるときも、まあよくある」
「どういうこと。わたくしのことが嫌いなの」
 鈴の耳元に、からかうような声が低くひびいた。
「好きだということだよ、悪いか?」
関連記事
 

 

 

Comment

 

Secret?


 

 

 

 

*Template By-MoMo.ka* Copyright © 2017 しろたえ日記, all rights reserved.

りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


シンイの二次小説をお探しの方は、下のリンクからどうぞ!
シンイ



『オロチの娘~妻問いの夜』
いるかネットブックス
※電子書店パピレスより発売中です。
1-203328-c200.jpg



乙女のぐっとくるお話を追求する官能部
http://p.booklog.jp/book/57289部誌その1
http://p.booklog.jp/book/80593部誌その2


kaminomaeをフォローしましょう

絵本関係 (4)
二次創作まとめ (27)
空色勾玉 二次 (99)
拍手お礼 (246)
日記 (35)
妖怪検定 (4)
一次創作まとめ (16)
白鳥異伝 二次 (31)
薄紅天女 二次 (30)
現代勾玉 (14)
勾玉の本 (20)
千と千尋の神隠し (26)
勾玉まつり (28)
未分類 (13)

このブログをリンクに追加する

この人とブロともになる

QR