これから1(西魔女 ルンフィリ)

2012.10.20.Sat.02:04
 雪のちらつく早朝。
 外套をまとい厚ぼったいフードを目深にかぶったルーンは、足早に小道を下りおりた。
 やぶの茂った見通しの悪い曲がり道をぬけると、ふもとの村にでる。
 もうすぐ雪はやむだろう。
 吐く息は白い。
 たちこめた雲のすきまから、日の光が射している。溶け残ってかたく凍った地面も、帰る頃にはぬかるみに変わっているかもしれない。
 昨晩は一睡もできなかった。へんに落ち着かなくて、ひとりきりの部屋が寒々しく思えて。
 無事に大仕事がすんだのかどうか、気になってたまらなかった。
 まだ眠ったように静かな村の道を抜け、くもった窓から灯りがもれる一件のちいさな家にたどりついた。こぶしに握った手は、冷え切っていた。たたこうとする前に、扉が開いた。
「まあ、あなたでしたか」
 小柄な女性に会釈をすると、ルーンは挨拶をするのももどかしく、口早に言った。
「どうですか」
「母子ともに健康ですよ。いくらか難しいお産だったけれど」
「フィリエルは、どうしています」
「休んでいます。よっぽど疲れたんでしょうね」
 ほっとして息を吐き出す。あたたかな家に招かれると、フードをとった。質素な食卓につっぷして眠る人を、ルーンは見下ろしたのだった。
「助かりましたよ。女手があると、なにかと心強いものですもの」
 ウールの上掛けを肩にかけてもらったフィリエルは、穏やかに寝息をたてている。起こしてせき立てるのも気が引けた。昨日の朝から彼女は付きっきりでお産につきあっていたのだ。年の近い若い産婦をフィリエルはとても気にかけて、臨月にはいると毎日のようにこの家を訪ねていたのだった。
「・・・・・・おたくも、きっともうすぐね」
 目尻のしわが笑うといっそう深くなる。ルーンはぎこちなく笑い返した。
 もうすぐ。何がもうすぐなのだろうと考えて、その意味に思い当たったとき、ルーンは内心うろたえて、振る舞われたお茶をこぼしてしまった。
「まあまあ、大丈夫?」
「すみません」
 身じろぎをしたフィリエルは、ゆっくりと顔を上げて、目をぱちぱちさせた。
「・・・・・・おばさん、赤ちゃんは?」
「眠ってるわよ。フィリエル、さあ、だんなさまが迎えに来てくれたわよ」
「だんなさま・・・・・・」
 ぽつんとつぶやいたフィリエルと、目があった。ルーンはとっさに顔を背けると、彼女の外套をとってきて腕にかけた。
「そろそろおいとまします」
 腕を引っ張り立たせると、フィリエルは不満そうに頬をふくらませた。
「赤ちゃんの顔を見てからいきたいわ。ねえ、ルーンものぞかせてもらいなさいよ」
「ぼくは、いい」
 夫でもないのに、産後の女性に近づくのはためらわれた。
「おいで、うちに帰ろう」
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コメント
西の善き魔女
めちゃくちゃよくて感動です★
西の善き魔女しっててよかった♪
Re: 西の善き魔女
ピノさん、こんにちは!
読んでくださりありがとうございます。
二人のその後が大変気になります…!!

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