りゅうの恋3

2012.08.24.Fri.05:38
「荻野、おまえさ。なんか憑いてる」
「はあ」
 千尋は頬をかいた。いつのまに虫に刺されたのか、とてもかゆい。
「あの、運的なものですか? 今日はあんまり・・・・・・」
 年下の男の子にからかわれたことを思うと、手放しに楽しい一日だったとも言えないような気がする。
「えっと。先輩にワタがしとか、リンゴ飴とか買ってもらって、そういう意味ではついてますかね。金魚を逃がしたのは悔しかったです」
「そういうことじゃ、ない」
 水島はこわい顔で千尋の肩をつかんだ。
「何かひっつけてきたぞ、おまえ」
「くもの巣?」
 肩や背中をばんばん叩かれて、千尋は思わず声を上げた。
「ちょ、先輩」
「うるさい、黙ってろ」
 何かのどに詰まらせたわけでもない。何かがついているなら、さっと払ってくれればいいのに。
「落ちねえな」
 ぼそっとつぶやくのも気味が悪い。
「もう、なんなんですか。おばけとかいやですよ。おどかすのはよしてくださいってば」
「そういうんじゃない。そんなんじゃないけど、おまえ、おかしいぞ」
「おかしいのは先輩です」
 にらみあうと、水島は目をそらさずに言った。
「ああ、おかしいよ。昔っから、おまえのことが気にくわなかったんだ。なんか、へんなもんをくっつけて、周りからひょいっと浮いてた。いつも、いっつもだ。それが、今日は地に足がついてみえた。はじめて、おまえがしっかり見えたような気がした」
「なんのこと・・・・・・」
「いいか、おれは、おまえが好きだ」
 千尋は絶句した。
「浮いてるから気になったのか、気になるから浮いて見えたのか、もうわからん。でも、考えるのはやめにした。おまえがその」
 言いよどんだ水島は、照れくさそうに、そっぽをむいた。
「そう言ってくれるんなら、おれも腹をくくるよ」
 なにがどうなっているのか、さっぱり話がつかめない。
「おまえのつけてるそれも、ぜんぶひっくるめておまえだもんな。よし、荻野。おれとつきあおう」
「・・・・・・」
 口をあけたままでいると、水島は千尋の両手をにぎった。
「心配すんな。おれも多少は免疫あるし」
 間近で見下ろされて、千尋はあとずさった。
 もうわけがわからない。ただ、つきあおう、だけが耳の奥でこだまして、頭が真っ白になってしまった。
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