りゅうの恋2

2012.08.23.Thu.04:29
 花火を見上げてはいても、ただ目にうつしているだけ。
 ハクのことがどうしても気にかかる。
(思い切り蹴ったけど、大丈夫かな)
 引き返したい気持ちと、もう二度と顔も見たくないという恥ずかしさがけんかをしている。
 水島に手を引かれ、はっとした。
「荻野、もう少しこっち」
 次々と打ち上げられる花火、そして、最後に金色の大輪が夜空を明るく染めると、その余韻を引き取るように、静かな笛の音が響きはじめた。引きはじめた人の波に流されそうになる。手をしっかりとつないでいるけれど、気詰まりな感じはしなかった。
「大丈夫か?」
 千尋はあいたほうの手で胸を押さえてみた。
 ハクと手をつないだときは、息をするのも苦しいくらいだった。目を見合わせると、とてつもなく恥ずかしいのに、きれいな瞳をもっとよく見たくて、たまらなくなる。抱きしめられると、ほっとした。ここにいればなにも危険なことはないと。たとえ、周りが敵だらけだろうと、大丈夫だと、不思議だけれどそう思ったのだ。
(私は、ハクのことが)
 そのとき、突風が吹き寄せてきた。ほんとうにふいのことだった。ところどころで悲鳴があがり、千尋も背を押されたようによろけた。けれど、しっかりと抱きとめられたのだった。
「好き・・・・・・?」
 小さな小さなつぶやきは、祭りの喧噪にまぎれて消えた。
 それでも、この気持ちは、しっかりと根をはったように動かない。
「帰ろう、荻野」
 人いきれに疲れたのだろう。言葉少なになった水島は、そう言った。つないだ手は、温かかった。
 ひんやりと冷たく、でも怖いくらい熱かったあの子の手のひら。触れられただけで、ふつうではいられなくなった。
(どうしよう)
 後ろ髪を引かれる。今すぐ引き返して、もう一度だけ顔を見たい。
 手を引かれていなかったら、本当にあの暗い道を駆け戻ってしまったかもしれない。
 あの子がいるというあかしもないのに。

 電車に乗ったことは覚えている。気づくと家の前だった。
「あの・・・・・・」
 まるで夢を見ていたかのようだ。雲を踏んで帰ってきたような。
「すいません、ぼうっとしちゃって。ありがとうございます」
「荻野」
 手を離し、水島は千尋に向き合った。さっきまで半分ひっぱられるようにして彼の背中を追ってきた千尋は、ぼうっとしていた自分は何か大変な失敗をしたのだとさとった。
 水島は真剣な顔つきをして笑みもなく、ただじっと千尋をみつめていたのだ。口を開いたとき、飛び出した言葉は。
「荻野、おまえさ」
 とても思いがけないものだった。
 
関連記事
コメント

管理者のみに表示