「それで、どうしたいんだ」
 藤太がいらいらしたように言った。阿高は解き方のわからない問題を当てられたときのような、ひどく落ち着かない気持ちで言い返した。
「わからないから困ってるんだ」
「また会いたいのか?」
「たぶん」
「たぶんって、おまえな」
 藤太がどこか落ち着かないのは、となりに日下部千種がいるからだ。デートがうまくいったらしく、二人は待ち合わせて帰るようになった。そのことについて、阿高がけちをつけることはない。千種は思ったよりやさしい女の子で、気持ちを許した相手には親身になるということがわかったせいもある。
「高倉苑上さんには、中等部に弟さんがいるんですって。放課後よく図書館で勉強してるそうよ」
 好きな人しか見えていない藤太より、千種のほうがずっと頼りになる。阿高は肘で叔父をつついた。
「千種は藤太にはもったいないな」
 千種は笑った。
「そうかしら」
 本気であわてる藤太が、すこしあわれで、でも今はなんとなくばかにもできない気持ちだった。誰かを思うということは、心の中に相手を迎え入れるということだ。
 鈴に関しては、好きとかそういう感じではない。
 ただ、どうしても気になるのだ。いくら家が立派だからといって、親に結婚相手を決められるなんておかしい。阿高が口を出す問題ではないことくらい、わかっている。ただ、放ってはおけそうにもないのだ。気がつくと、もう鈴の泣きそうな笑い顔を思い出している。
「図書館か。先に行くぞ」

 藤太と千種は顔を見合わせた。顔も知らない相手を、どうやって探すのだろう。
「女の子のことに関して、これだけ行動力を発揮する阿高をはじめてみたよ、おれは」
「さびしい?」
 藤太は真顔で言い返した。
「複雑ではあるな。それでも、さびしくはないよ」
 手を握られて、千種はすこし身を引いた。前方からベルの音がして、目をやると補助輪付きの赤い自転車に乗った女の子が、すぐそばまで来ていた。
「日下部千種!」
「え?」
「挙手」
「は、はい」
 言われるままに手を挙げる。つないだままなのでアーチができた。藤太の方がやや背が高いので、すこしゆがんでいる。
「どうぞ、お通りください」
 藤太はうやうやしく言った。鼻を垂らした女の子を通すと、藤太はおかしそうに笑った。
「阿高が一緒なら、こういうことはできないだろ」
 一瞬あとに、千種は吹き出した。
「まあ、それもそう、ね」
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りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


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