船上での再会~暁まで


「ときに命、あの娘は、どのようになさるおつもりでおられますか」
 武彦の案ずるような目を見て、小倶那ははっとした。小倶那がよくても、周りの人々は遠子の存在がいたく気になるようなのだった。
「おかしいか? 彼女を連れていくのは」
 おかしいと、顔に書いてある。娘を召しておいて、寝床をともにしないなど、ありえないのだ。内心で苦々しく思いながら、小倶那は言った。
「そうだな、生き別れの兄妹だったとでも思ってくれ」
 武彦が去ると、小倶那は息を吐いた。忠義者の彼は、つねに小倶那の思惑をよくくんでくれた。しかし、この件に関しては、どうもそうはいかないようだ。
 遠子を妹として扱うなんて、剣を使って機織りしろと言われるくらい無理なことだ。
 遠く離れていた間、幼い顔を伸ばしてみたりしてどれだけ遠子は大きくなったのだろうと想像していたが、じっさいに再会した遠子は、小倶那の腕にすっかりおさまるほど華奢で、細い首はかんたんに手折れる花のくきのようだった。面差しはひいきめから見てもかわいらしい。怒るとこわいけれど。
 遠子はその日、機嫌がすこぶる悪かった。 
「わたしをなんだと思っているの」
 戸口から出ていこうとする遠子の剣幕を前にして、小倶那はひどくあわてた。
「わたしが今、ここにいる意味を教えて。思い出ではなく」
 遠子のまなざしは真剣だった。
「思い出は動くことがないけれど。今とこれからは、どうにでも変える方法があるはずよ」
 遠子は一歩進み出た。これ以上近づかないで欲しかった。遠子の息づかいと、強く輝くまなざしを前に、自分の望みにふたをすることは苦行に近かった。
「方法って、たとえば」
 うまくはぐらかすことは難しいとわかっていた。小倶那が心底から望んでいることを、遠子も願ってくれているとわかると、何も考えられなくなりそうだった。ちいさな顔を両手で包み込むと、すっかり隠れるほどだ。唇をあわせると、度肝を抜かれたように大きくなった瞳が、すぐ目の前にある。
「こういう?」
 息をのむ気配に、あおり立てられるようにして、小倶那は細い体をだきしめた。鼓動が感じ取れるほどの近くに寄り添えば、衣の下に息づく体つきの違いがおそろしいほどはっきりする。遠子の柔らかい体を押しつぶし、熱を分かち合いたいと、ほとんど憑かれたように小倶那は思った。
「はなして」
 だから、遠子がおびえたように逃げようとしてくれて、助かった。これ以上近づけば、ねじ曲げられた剣の力は遠子を害するだろう。
「こういう方法もあるにはある。でもぼくにはそれ以上に遠子が大事だ」
 小倶那は心を込めて言った。
「剣の力にさらすことはできない」
 遠子に引きとめられる前に、小倶那は逃げるように外へ出た。剣の力の存在・・・・・・母の存在を、これまで常に意識してきた。逃れるには、死をもって対抗するしかないと。
(思い出はかえられない。でも、今とこれからは、どうにでも変えられる)
 遠子の言った言葉が、じわじわと胸に広がっていくのを感じた。
 遠子は、強い。その強さが、うらやましく、そして誇らしかった。
 今夜ほど、生をまぶしく、焦がれたことはないと、小倶那は唇をかみしめながらそう思った。
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りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


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