となりに腰掛けた遠子は、ぐいっとひざをぶつけてきた。やめてほしい。
「小倶那はさびしくなかったの? 久しぶりに会えたのに。わたしは、ずっと楽しみにしてたのよ、小倶那が帰ってくるの。ほら、カレンダーにしるし、ついてるでしょ」
 壁にかけられたカレンダーには、たしかに×がたくさんついている。
「ぼくだって」
「なら、どうしてそっけないの」
「そっけないって、べつに、そんなつもりはないけど」
 もう子どもじゃない。かといって、大人でもないのがはがゆいけれど、おでこを合わせて「遠子、会いたかった」なんて、やれるはずがない、と思う。
(ぼくが間違っているんだろうか)
 遠子がよそよそしいと思うなら、目をつぶればできるかもしれない。
「遠子、あの。会いたかっ」
 唇に何かが押しつけられた。目を開けると、薄みどり色のまんじゅうが目の前にあった。
「抹茶味の鳥まんじゅう、やっぱりおいしい。小倶那も食べたら」
 食べ物に罪はない。手でぎゅうとにぎりつぶして、ひしゃげたまんじゅうを小倶那はしぶしぶ口に入れた。
 けっこうおいしいのが、また腹立たしい。
 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。菅流が顔を見せた。いつか会うのはわかっていたが、今日はそっとしておいてほしかったと思う。菅流は決して嫌いではない。だが、気後れして疲れてしまうときがあるのだ。
「小倶那の顔を見にきたぞ。ついでに夕飯も食わせてくれ」
「……図々しい」
「聞こえてるぞ、そこ。おお、おばさん張り切ったな」
 冷蔵庫から勝手にビールを出す菅流にあきれてしまう。三人になって、少し気が楽になったのは確かだった。
「未成年だよ」
「特別の祝い酒だ。よく帰ったな、小倶那」
 聞いちゃいない。その上、あっという間に一缶を飲み干してしまった。この飲みっぷりときたら、日常的に祝い酒でのどを潤している不良の姿だ。
「そら、みやげだ」
 無造作に食卓に置かれた紙袋を、小倶那はあけてみた。菅流をにらみつけると、悪びれないさわやかな笑顔をむけてくる。制服女子が満載の、遠子には絶対にみせられないたぐいの本だ。
「頼んだ覚えはないけど」
「あって困るもんでもないだろ」
 悪意を感じる。たしかに必需品かもしれないが、おおっぴらに広げられるわけがない。どこに隠しておけばいいんだ。
「持って帰ってよ」
「やだね。折ったところだけでも、必ず見ろよ」
 大きなから揚げにかぶりつきながら、菅流が言った。




「小倶那は家族よ」
 遠子を怒らせたいわけではないのに、止められない。小倶那は、自分がとても腹を立てていることに気づいた。いつもなら、怒りも悲しみも受け流すことができる。我を忘れることなんてない。
 わかっている。遠子は小倶那のことをきょうだいだと思っているのだ。小倶那が抱く思いなど、絶対に遠子に気取られてはいけないと、会う前まではそう思っていたのに。うれしそうな遠子の顔を見れば、もう追いつけそうもないところまで、自分のものとも思えない気持ちが走っていったのがわかる。軽く二周差くらいはついている感じだ。なかったことにはできない。
(遠子)
 気持ちをぶつけて怖がらせたりなどしたくないのに、どうしてだろう。心がちっとも思うようにならない。
「小倶那」
 遠子の声は怒っているというより、戸惑っているのだ。
「もしかして、心配してくれてるの?」
 うなずけばいい。なのに、小倶那は口をついて出ようとする言葉をのみこめなかった。
「ちがう」
 うめくように小倶那は言った。
「きみはいつだって、女の子なんだ、ぼくにとって」
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りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


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