勾玉ゆくとし くるとし8

2012.01.01.Sun.04:30
04:30

 稚羽矢が目を覚ますと、すぐそばにはうたたねをする狭也がいた。
 障子の向こうは薄明るい。夜が明けたのだろう。
 いつの間にか寝かされていた布団から起きだして行くと、そこここに、たてになりよこになりして、布団を掛けられて眠る人たちいる。稚羽矢はだれかの足を踏み、寝ぼけた声で怒られたがかまわずに台所に出た。
 頭がいたい。顔をしかめてコップに水を注いでいるとき、後ろから声がした。
「高倉」
「先生? なぜここに」
 科戸の不機嫌な顔を見て、ここが一瞬学校に思えた。
「それはこちらが聞きたい。親御さんはおまえがここに来ていることを知っているのか」
「言ってくるのを忘れた。でも、あの人たちはきっと気にしない」
 憎々しげににらんでくるが、そんなに悪いことを言っただろか。
「未成年が、身分をわきまえろ。あれだけ飲んで、よくも起きてこられたな」
 水を飲み干して、稚羽矢は息をついた。
「きゅうに気分が悪くなって、驚いた。膝枕というのは気持ちがいい。狭也にまたお願いしよう」
「反省する気がないようだな。いい度胸だ」
「反省とは?」
「こい、寝ぼけた目を覚ましてやる」

「何事だ?」
 夫が隣に立ったのに気づいて、明はささやいた。
「あの子を御存じ? 狭也さんが連れてきたのだそうです。あなたと同じ苗字です」
 雪の積もった庭で、竹刀をかまえて打ちあいをする二人を目をこらしてみつめると、夫はうめいた。
「稚羽矢だ。なぜここにいる?」
 明はため息を吐いた。
「困ったこと。どうかあの子がけがをする前に止めてください」
「いや、見ていよう」
 夫はどこか油断のならない目をして、おもしろそうに見つめているのだった。
「高倉の本家の秘蔵っ子だ。立派な姉と兄の後ろに隠れて、親戚だというのにいままでよく見たこともなかった。いい機会だ。いかほどのものか、見定めてやろう」

 稚羽矢は構えも何もあったものではなかったが、じつにうまくよけた。やる気がなさそうなのに、身のこなしがすぐれているのが、余計に科戸の怒りをあおるようだった。
「元旦から元気だね」
 起きだしてきた鳥彦が、あくびをしながら言った。
「挨拶がさきだと思うんだけど。まあ、これが毎年の恒例になるような気がするけどね」
 それを聞きつけた地獄耳が、竹刀を払いながら叫び返した。
「恒例だと。ふざけるな。こいつが二度とこの家の敷居をまたげんように、なんとしてでも、今ここで叩きのめしてやる」
 稚羽矢の手にした竹刀が宙を舞い、見事に地に突き立った。
 騒ぎに起きだしてきた人々は、わけがわからないながらも、手をたたいた。

「教職に就いた人間にあるまじき発言だな」
 菅流があきれかえった顔つきで言った。
「わかる気がするよ。恋は人を強くももろくもする。・・・・・・千種まだ寝ているかな」
 藤太がため息をつく。
「それにしても、腹が減った。おせちは台所か?」
「あの、つまみぐいはよしたほうが」
 小倶那がとめた。

 そこへ、岩姫があらわれる。皆は背筋をただし、向き直ったのだった。

 いざや、いざ。

「あけまして、おめでとうございます」
関連記事
コメント

管理者のみに表示