勾玉ゆくとし くるとし5

2011.12.31.Sat.21:50
21:50

 千種が離れの自室でミシンをかけていると、ふいに窓ガラスをたたく音がする。
 手をとめて、カーテンのすきまから外をのぞくと、雪の降りしきるなかに藤太が立っていた。
 思いもかけない人が、思いもかけないところにいることに驚きながら、千種はあわてて窓をあけた。
 凍えるような寒さだというのに、藤太はうれしそうに笑うのだ。
「来年も、よろしく」
「それを言いにきたの?」
 思ったよりきつい声が出て、千種は目を伏せた。
 ちがう。こんなことを言いたいのではないのに。
 そんなところに立っていたら、風邪をひいてしまう。
「来年はもっといろんなところに行こう。二人で」
「二人で?」
「そうだよ。近くの公園とか、ゲームセンターとか」
「もう行ったことあるわ」
「いつでもどこでも、きみがいたら面白い。見なれた場所も、なんでもない風景も、きみが一緒にいてくれれば、全然ちがうものに見える」
 そんな風に言われたら、ぐうの音もでない。藤太はいつでもこちらにためらいなく進み出て、いつの間にか千種のすぐそばにいる。そして、腕をとるのも抱きしめるのも思いのままにできるのだと、口には出さずに目で語るのだ。
 千種は彼の笑みの下に、軽蔑するべき下心がないか、あったらどうやってあばけばいいのかと、目を凝らしてみつめた。ひとたび、この人を心の中に入れたなら、絶対に追い出せない。この人が気持ちを変えたとしたら、たえられないのはこちらだ。
「あいさつだけだよ。凍えて死にそうだから中に入らせろなんて言わない」
 情けない声に、千種は思わずつぶやいた。
「よろしくね、来年も」
「中に入ってもいい?」
「だめ」
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