勾玉ゆくとし くるとし3

2011.12.31.Sat.20:45
20:45

 結局、勝利したのは白組だった。

 雪合戦で体の芯までこごえたらしいおじさんたちは、体をあたためるためと言って酒を飲み始めた。
「あなた、ずいぶんお飲みになったでしょう」
「いいや、いくらおまえの頼みとは言えきけん。男同士の約束だ」
 真刀野おばさんの心配をちっとも受け入れず、よくわからない男同士の約束とやらで酒を飲むおじさんたちにはあきれてしまう。橘は入り婿を多く迎えていて、そのせいか常日頃は、どこか一歩ひいた風情の男たちではあるのだけれど。
「男の方々は、こういうとき団結するものさ」
 母が言うのも、分かる気がする。酒飲みの集団にしか見えないが、一族の皆が集まる大事な社交の機会でもあるのだろう。

 稚羽矢はどうしているかと、近くにいって肩をひくと、そのまま狭也のほうに倒れこんできた。顔が赤い。すぐそばには半分くらいなくなった一升瓶があり、狭也は青くなった。
「このひとに飲ませたのは誰?」
 すまなそうに伊吹おじさんは頭をかいた。
「顔色を変えないものだから、気づかなかった。水でもあおるようだったぞ」
 狭也は大急ぎで彼を横たえて、座布団をおって頭の下にさしいれてやった。
「大丈夫? さあ、水をのめる」
「気持ち悪い」
 一口水を飲んだか飲まないうちに、稚羽矢はきつく目を閉じた。座布団では頭が沈み込んでおさまりがよくないようで、しきりとうなっている。仕方なしに小さなころ母にしてもらったように膝枕をすると、稚羽矢は深く息をはいた。
「こうしていると、すこし楽になる」
「たしかに枕よりは具合がよさそうだ」
 悪びれもしない大人たちをにらむと、狭也ははっきりと言った。
「飲みすぎです。まだ九時にもならないのに」
「……遠子よりこわいな」
 つぶやきを聞きとめて、狭也は唇をまげた。
「遠子ちゃんも、すっかり逃げ出してしまいました。おじさんたちが、わけもなくからんでくるから。今夜はもう帰ってこないかも」
「なに!」
「小倶那が一緒ですから、平気ですわ。あなた」
 ほがらかな口調とは裏腹に、どこか心配そうに真刀野おばさんが言った。
「双子のように、いつでもどこでも一緒ですもの、あの子たちは」



「それで、どういうわけで、こうなった?」
 狭也は科戸をみつめた。
「お酒を飲まされたのであって、けっしてすすんで飲んだわけじゃないと思います。このひとを怒るなら、監督の行き届かなかったみなさんも叱られるべきだわ」
「そういうことではない」
 科戸はおそろしく低い声で言った。どんな生徒も震え上がらせるこの声を、まさか年末に聞くことになろうとは。狭也は内心泣きそうになりながら、思わず稚羽矢の頭をかばうようにした。
「聞けば、こいつは何度か羽柴の家に泊まっているらしいな。高倉が押しかけているのか」
「父も母も歓迎していますけど」
「きみもか」
 狭也はわけもわからず、うなずいた。すると、眉間のしわがいっそう深くなった。
関連記事
コメント

管理者のみに表示