最後の一頭を牧に連れていくと、ようやく朝日が向こうの林からのぼってくるのが見えた。夜を追いやり、差してくる清新な光は、枯れ色をした牧草地を照らし、湯気立つ馬の背をかがやかせた。
 阿高は、しずみかける太陽より、朝焼けのまっさらに白い陽の光のほうが好きだ。漂う雲が金色に染まるさまは、見ていてちっとも飽きない。
「飯だぞ」
 田島のどなる声がした。阿高は厩舎にとってかえし、かばんを肩にひっかけてから飼い葉置き場をのぞき込んだ。誰もいない。わらのうえにできたくぼみには、几帳面にたたまれたコートがあるだけだった。
 足早に事務所をぬけて、ストーブに暖められた食堂に足を踏み入れると、阿高は目をみはった。ピンクのエプロンをつけた田島はいいとして、白いかっぽう着と三角巾を身につけて、ほかほかと湯気を立てる朝食の皿を運んでくるのは、厩舎で正体なく眠り込んでいたやつだったからだ。
 足下がふらついているのは、両手に持った皿に気を取られているせいだ。阿高は荷物をおいて仕方なく歩み寄ると、その手から皿を取り上げた。はっとしたように、そいつは顔をあげて、阿高をじっとみつめてくる。
「落としたらうらむぞ」
「・・・・・・落としません」
 やさしい顔立ちをしているのに、唇を引き結ぶと、ひどく頑固にも見えるのがふしぎだった。丸太を半分に叩き割って並べたような無骨なテーブルに、朝食がつぎつぎ並べられていく。山盛りのサラダにつやつやした黄身もあざやかな目玉焼き。こんがり焼いたハムもそえてある。大きなマグカップにたっぷり注がれた牛乳に、厚切りのパン。これは近所のパン屋が特別に届けてくれるもので、ほんとうにほんとうの焼き立てだ。ちぎったら湯気がでそうだ。
「鈴、こっちも頼む」
「はい」
 田島は気安く鈴などと呼んでいる。後ろを向いたとき、一つに結ばれた髪の房が揺れているのに気づいて、阿高ははっとした。
 鈴がきゅうに振り返り、かすかに笑った。
「阿高、コートをありがとう」
 わるいことに、牛乳を一口ふくんだところだったので、阿高はひどくむせた。
「大丈夫?」
 せきこんでいると、顔をのぞきこまれた。心配そうに寄せられた眉と、おおきな目。長いまつげ。女の子だと思ってみると、なぜ夕べは男に見えたのか、そちらのほうがふしぎだった。ジャンパーが男物だったからか、帽子をすっぽりかぶっていたからか。
 阿高は鈴から顔をそむけ、いらだちをぶつけるように声を上げた。
「おっさん、ハムつけてくれた?」
「おう。食いしん坊」
 食いしん坊上等だ。
「メシにありつけなかったら、おれは死んじゃうよ」 
 エプロンをつけたまま席に着いた田島にならって、手を合わせると、鈴はきょとんとした顔でたずねた。
「メシって、なあに」
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りえ

Author:りえ
基礎絵本セラピスト®
妖怪博士(中級)
漢方養生指導士(初級)

養生とは、生命を養うこと。
健康を保ち、その増進につとめること。

絵本セラピーで心をほぐし、ときに妖怪でほんわかし。
漢方の考え方で身体をやしなっていきます。

無理しない、頑張らない「養生」日記です。

古代日本好き。


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