白鳥学園~幼なじみの憂鬱

2011.12.05.Mon.11:23
 駅前に飾られた大きなツリーは、小倶那の記憶にあるよりいくらか小さく見えた。
 母親に手を引かれた女の子が、しきりと見上げている。ぴかぴかのオーナメントや大きなリボンで飾られたツリーはたしかに立派で目を引くものだった。
 夕刻だからか、それとも祝日を含め明日から三連休に入るせいか、大勢の人で駅前はこみあっていた。
 着替えをつめたボストンと、みやげの紙袋を持ったまま、小倶那は帰り足の人々を見るともなしに眺めていた。
 久しぶりに帰ってきた街は、どこかよそよそしい感じがする。
 軽快なテンポのクリスマスソングが流れる中、ゆく人みんな、どことなく楽しげに見える。
(遠子はほんとうに迎えに来てくれるのかな)
 なんとなく不安な気持ちで時計をみあげる。待ち合わせの時間まで、あと五分だ。
 あたりが薄暗くなりはじめたころ、小倶那はどこか見覚えのある人を街灯の下にみつけた。
(あれ、稚羽矢さんだ)
 そう遠くない親戚で、ずいぶん前に挨拶を交わしたきりだが、ふしぎと覚えていたのだった。同い年なのに、なぜか気安くかかわれないような、そんな雰囲気がある。きれいな顔をしているのに、めったに笑わないせいかもしれない。
(あの子は、彼女かな)
 稚羽矢が腕を引いてかかえるように抱きしめたのは、小柄で細身の子だった。美人だが、すこし気が強そうだ。
 稚羽矢が誰かを大事そうにかばい、ほほえんでいるのを見ると、小倶那はどこかほっとした。稚羽矢もあんな風に笑えるのだ。
「何見てるの?」
 突然声をかけられて、小倶那ははっとした。ちょうど広場の時計が時報の鐘を鳴らし始めたところで、ツリーに取り付けられた何百という電球は、楽しげに光りだしたのだった。
「時間ぴったりだったでしょ」
 白いコートを着た遠子の得意げな顔を、小倶那はにらんだ。
「ぼくが迷子になると思った? 待ち合わせなんかしなくても、家の場所は覚えてるよ」
 遠子は笑った。
「わかってるわ。でもね、このツリーを一緒に見たかったんだもの」
 小倶那は何も言い返せなくなった。
 クリスマスが楽しみだったのは、子どもの頃くらいだ。
 生家に引き取られたあとは、家族でクリスマスを祝うどころか、正月も一人のことが多かった。小倶那はまもなく全寮制の中学に入れられ、そうなると忙しい父も兄も小倶那にさく時間はないに等しかったのだった。
 そんなとき、小倶那をなぐさめたのは遠子との思い出だった。
 遠子は、サンタクロースに手紙など書いて、じっさい、「髭づらのおじいさんより」としるされた返事もきたのだ。毛筆で書かれた手紙を、遠子はとても大事にしていたっけ。
「サンタクロースをまだ信じてる?」
 小倶那がきくと、遠子は眉を寄せた。
「前に話さなかったかしら。サンタに扮していたのは親戚筋の伊吹おじさんで、手紙をくれたのは開都おじさんだって。ほんとう、子どもをばかにしてるわ」
「遠子のためにつきあってくれたんだと思うよ。怒ったらかわいそうだ」
 笑いをこらえて、小倶那はつぶやいた。
「ねえ、明ねえさまが、小倶那に会えるのをとても楽しみにしてたわ」
 小倶那はうなずいた。こうして年末を故郷ですごせるのは、兄たちがめでたくも結婚することが決まったからなのだった。式は数日後。大勢の人たちが集まる。懐かしい場所で正月もゆっくり過ごせるのはありがたいが、少し気後れするのも確かだった。
「帰ろう、小倶那」
 遠子はしばらくツリーを見上げていたが、それにも飽きたのか、手を差し出した。
 その手をすぐには取れなくて、小倶那は焦りに似た気持ちを味わった。
「おみやげなに? あ、抹茶味の鳥まんじゅう! 覚えててくれたの」
 遠子は笑った。
「これだから、小倶那って大好きよ」
 小倶那との再会より、鳥まんじゅうを喜ぶ遠子を前にして、やりきれない気持ちになる。手をつなぐといっても、引っぱられるような格好では、母親に手を引かれる子どもと変わらないではないか。
 ツリーの前で待ち合わせと聞いて、期待したほうがまちがっていたのだ。期間限定、このあたりで一番のデートスポットとはいえ、相手は遠子だ。
 ささやかな願いはふいになったようだった。電話もメールもやりとりしていたとはいえ、顔を合わせるのは久しぶりだ。
(・・・・・・一年ぶりなのに)
 まんじゅうすら憎らしく思えて、小倶那はため息をはいた。
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