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麗し女を、ありと聞こさば2

Category空色勾玉 二次
 冬枯れの景色の中、娘たちのまとう衣裳のあざやかさはじつに目を楽しませてくれる。
 さきほど宮に到着したちいさな輿から、末の娘が降りてくるのに手を貸しながら、山城王はじっくりとその姿を眺めた。
 年の頃は十六。日に焼けぬ白い肌に、涼しいまなざし、笑えば心を動かさない者はいないだろう。黄色い裳をはいた姿は、春を呼ぶ女神もかくやという可憐さだ。
「お父様」
 不安と興奮を上手に隠した姫を、この日ほど誇らしく思ったことはない。落ち着いた物腰は、がさつな闇の女には真似できまい。
「案ずるな。御方はかならずそなたの手をお取りになる」
 侍女に細々したことを言いつけると、山城王は御座へ足を向けた。その途中で、ふと気が変わって、廊を渡った。
(闇の連中が、どんな醜女を出してくるか、みものだ)
 闇の巫女はぶさいくではないが、それほど美人というわけでもない。どんなに飾りたてようと、それなりにしかならないだろう。
 こっそりと柱のかげから室をのぞくと、憎たらしい闇の若造が、まじめくさった顔で何かを言っている。侍女が大急ぎで室を出ていった。あとには、こちらに背をむけて座る娘と、それをにらみつけるように値踏みをする科戸が残された。
(さては、あれが闇の・・・・・・)
 狭也姫ではない。いくらか背が高いようだ。照日王がよく身につけていた紅梅の裳は床に広がり、結わずに背に流した髪は黒々としている。
(どこから見繕ってきたのやら)
 後ろ姿は悪くないにしても、大事なのは顔かたち。そして、気品だ。山城の姫以上にそれを持ち合わせている者がいるわけがないのだ。
「よいか、そなたの働きにすべてがかかっているのだ。それを忘れるなよ」
 科戸は偉そうにさとすのだった。
「そんな顔をするな。ぶさいくになる。欲しいものを手に入れるには、何かを犠牲にしなくてはならんのだ。なに? 恥ずかしい?」
 一笑にふし、科戸は冷たく言った。指であごを上げさせ、品物に傷がないか調べるような目つきで顔を眺めまわしているようだ。
「いくらかマシになった。黙っていれば麗し女だ」
 娘が何か言ったが、小さすぎて聞き取れなかった。 
「なにをいまさら。そなたが、どんなことでもすると言ったから、わたしもそれなりのことをしたまでだ。・・・・・・ここで逃げたら、もう知らん。そんな弱虫とは口もきかん。恨むなら、いくらでも恨め」
 山城王は信じられない思いだった。年端もいかないような娘の思慕を逆手にとって、むりやり大王に娶せようとしているようにしか思えない。科戸はおそらく、自らの手のついた娘を着飾らせ、差し出そうという魂胆なのだ。
(あくどいことをする)
 娘の肩はふるえている。敵方とはいえ、少々気の毒に思わないでもない。科戸はあざ笑うように告げた。
「ひとときの辛抱だ。気張れよ」
 娘が立ち上がった。驚いたように科戸が身を引いた。
「待て!」
 室を飛び出し廊にでてきた娘は、腕で顔を覆うようにしてこちらに走ってきた。
(なんと)
 ふとかいま見えたその面。眉を寄せて目を伏せたその艶めかしさは、文句のつけようもない美しさだった。飛ぶように駆けていった後ろ姿を、山城王はしばし呆然としてみつめていた。



 池のそばで水鏡をのぞき込んでいる娘をみつけて、狭也は少し迷ったあと声をかけてみることにした。
「どうなさったの?」
 今日は山城王が音頭をとって開かれる、宴のある日だ。豪族の姫たちが着飾って、稚羽矢の前に座るのだ。まだ花も咲かない冬のさなかに、娘たちを花に見立てて大王の目を喜ばせようというのだ。
 ここは狭也の室にちかい坪庭で、姫君たちの控えの間からは全くの反対方向だ。迷い込んだにしてもよほどのことだ。宴に間に合わないかもしれない。
「さあ、ご案内しましょう」
 顔を伏せた娘は、動こうとしないのだった。狭也は身をかがめて、娘の顔をのぞきこんだ。
「どちらの姫でいらっしゃるの? おなかでも痛むのですか」
 娘はうなずいた。なおさら、こんなところにおくわけにはいかない。ゆったりとした袖にかくれた手を握った狭也は、ひどく驚いて声もでなかった。細くはあっても、その手は男のものであり、ふれた肩にはまろみがないのだ。
 しぶしぶといった風に顔を上げたその人は、狭也と目を合わせずにむっつりと押し黙っていた。
「稚羽矢?」
 美しく化粧をほどこされてはいるが、たしかに稚羽矢だ。狭也はあまりのことにあきれてしまった。
「まさか、宴にでるつもりなの?」
「まさか!」
 稚羽矢はうめくように言った。

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