あんな奴には、渡さない~菅流

2011.11.18.Fri.04:07
 行くな。
 そう言って、本当は止めたかった。
 復讐して、どうなる?
 失われた故郷が戻るわけでも、大切な人が死出の旅から引き返すわけでもないのに。
(おれではわからないというのか)
 故郷を失ったことのない菅流には、遠子の切ないほどの気持ちなど、わからないのかもしれない。
 波打ち際で腹いせに重たく濡れた浜の砂をけっても、引く波にさらわれていくだけだ。
 遠子の乗った小舟は、もう見えない。こんなところにいても何もできないというのに、菅流はどうしてもここを離れる気にはなれないのだった。
 遠子を見送るのは、思った以上につらいことだった。女が戦いに行くのを黙ってみている男がどこにいるというのだ。
 しかし、これは遠子の戦いであって、いくらか手を貸したとはいえ、菅流が役目そのものを肩代わりをできるものではないということも、分かっていた。
 旅路の途中、遠子の様々な表情を見た。おどろくほど強いところがあるかと思えば、赤ん坊のように泣きじゃくる夜もあった。
 なき故郷を思い、復讐の相手となり果てた幼なじみを思って、遠子は涙を流すのだ。
 菅流に言わせれば、娘は憎むべきものを思って泣いたりしない。
 恋しい人を、殺せるものか。
「がきは、これだから困る」
 菅流は吐き捨てるようにつぶやいた。
 もし、もしもだ。
 遠子が女だったら、自分はこうして見送れただろうか。
(そうだ。追うのなどやめろと、おれはあとすこしで言うところだった)
 敵討ちなどやめてしまえと、手をつかんで離さなかった。御統をばらばらにして、ミドリを細い首にかけてやることもできたろう。
 そこまで考えて、菅流はうなった。
「いかれているぞ、おれは。くそ、こんなときにあいつらでもいればな」
 一人では笑い話にもできない。孤独というのはいやなものだと、菅流は頭を振った。
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