ありがとうございました!

2013.01.01.Tue.07:00
まつりはいかがでしたでしょうか。

勾玉好きの皆さんの、愛のこもった作品できっとお楽しみいただけたことと思います!

作品を寄せてくださった皆さま、拍手やコメントを寄せてくださった皆さま、
遊びにきてくださった皆さま。

ほんとうにありがとうございます!!



夕暮れの丘 (ななこさん)

2013.01.01.Tue.06:00
※オリジナルキャラ多発しています。気分を害されたら申し訳ありません。
※原作を中傷、または冒涜する意思は全くありません。
軽く読み流して頂けると大変ありがたいです。






「父さん、大変だ」

慌てた様子で駆け寄ってきた息子を阿高は一瞥して表情を確認すると、特に大変でもないことを察して野良作業の手を休めずに返事した。

「お前は一日に何回大変なことが起きるんだ」
「本当に大変なんだって」
真広はむきになって答えた。

「さっき、勝が言ってたんだけど、母さんって昔宮に居たんだって」

阿高は手を止めて真広を見返した。興奮で頬が赤くなっている、数えで八つになった息子はどちらかと言えば苑上似だ。黒目がちな目が好奇心旺盛に動く。

「こないだ言ったろ」
「聞いてないよ」
「…ああ、あれは明里か」
年子の姉である長女の名前を阿高は呟いた。どうやら竹芝の人々も言い飽きた噂が、今度は子どもらの間で再び広まっているらしかった。別に秘密では無いことだったから説明を求められた明里にはきちんと話したのだった。
「で、本当なの」
急かすように阿高の持つ鍬を揺さぶったので阿高は少し慌てて鋭い声を出した。
「こら、触るな」
びくりとして離れた息子に、刃の尖った部分を見せて阿高は怒った。
「ふざけてると今に痛い目に合うぞ。離れてろ」
「ごめんなさい」
しゅんとして素直に謝った真広は次の瞬間にはもういつもの調子に戻っていた。本当に反省しているんだろうなと阿高は訝しんだ。二つも年上の藤太の息子である勝太と同等に遊ぼうとするので真広は怪我ばかりしていた。最も自分もこの時分に大人しかったとは言い難く、阿高は更に言い募ろうとしたが黙ることにした。

「早く教えてよ」
「本当だよ」
随分あっさり認めたので真広は拍子抜けしたようだった。「じゃあ父さんも都の人だったのか」
「俺は竹芝で育ったよ」
訳が分からないと言う顔をしたので阿高は付け加えた。
「連れて帰ってきたんだ」
真広は目を丸くして大きな声を出した。
「あ、盗んだんだ」
「教えに則っただけだよ」
平然と阿高は言い、真広は目を輝かせた。
「父さん、都に行ったんだな。どうだった」
「どうって」
阿高は思い返したが、何しろ都をきちんとは観察していないのだ。特に記憶に残っていなかった。
「母さんに聞けよ。俺より詳しいよ」
「母さんが違う人と結婚していたら俺は皇子だったのかな」
無邪気に想像して話す息子に阿高は水をさす。
「鈴が違う男と結婚していたらお前生まれてないよ」
「なんでだよう」
「面倒だから大きくなったら教えてやる」
阿高は本当に教える気がなさそうだった。真広は不服そうに頬を膨らませる。
「じゃあおじさんに聞く」
藤太は本当に教えてしまいそうだった。それも面倒だなと阿高は内心思った。
(口止めしておこう)
阿高はそう考え、ふと息子に尋ねた。
「真広は都に行きたいのか」
「うん、行ってみたい」
「皇子は大変だぞ。うんと小さい頃から難しい勉強ばかりで、お前みたいに遊んでいられない」
「げ。それは嫌だ」

むくれて真広は言い、段差に腰掛けて足をぶらぶらさせた。父親はこちらを向くことなく仕事を続けている。まだまだ甘えたい盛りの真広はこうしてたまに阿高の仕事場を訪ねては構ってもらいたがった。屋敷に戻れば兄弟のように育った藤太のとこの息子たちとじゃれあっていたから、父親と二人の会話はなかなか機会が無かったのだ。母親の苑上はこの春生まれた双子に付きっきりだった。
双子は女の子で真広から見ても非常に可愛らしい。屋敷どころか郷中がそっくりに良く笑う赤子の彼女たちに夢中で、その姉と兄である明里と真広の顔を見つけては双子は今日何した、どうしたと尋ねたがった。明里も真広もあまりにそれが続くので少し面白くなかったのだ。

父親の阿高は外で会っても双子のことを聞いたりせず、兄弟をいっさい分け隔てしないので真広は居心地が良かった。こうして父と過ごすゆっくりとした時間が好きだったのだ。
「明里来た?」
「お姉ちゃんって呼ばないとまたあいつ拗ねるぞ」
「…姉ちゃん来た?」
「来てないな。いつも来てるけど」

皆があまりに双子に構うので特に甘えん坊な姉の明里はよく拗ねていた。それで明里も近頃よく父親の元を訪れていたのだ。父親を独り占めできることに密かに真広は喜んだ。
「父さん、コゲ見せてよ」
よく鍛錬されている阿高の馬は真広の憧れだった。二十歳になったら必ずあんな馬を貰うと意気込んでいる。
「これそこまで運ぶの手伝うんだったらいいよ」
「やったあ」
飛び上がって真広が集まった枯草を運び始めた。阿高も思わず目を見張るほどの勢いで全て運んでしまってから、真広は父親にねだった。
「父さん、肩車」
「重くなったから嫌だ」
真広が地団駄を踏む。
「こないだ明里にはしてたじゃないかあ」
「仕方ないな」

腰をいわさないだろうなと呟きながら真広を肩に乗せると、はしゃぐ息子を宥めて歩き出した。ずしりと重くなった息子の成長を感じる。
「父さんは双子好き?」
阿高は拗ねたような声につい笑ってしまう。
「明里もそんなこと聞いてたな。お前ら揃って拗ねているのか」
「別にいー」
「覚えてないだろうけどお前らも赤ん坊の頃はああしてちやほやされてたんだぞ」
「ええー」
阿高の髪をいじくりながら信じられないというように真広は言った。
「母さんは双子の方が好きだよ、きっと。ずっと付きっきりだもの」
「乳飲み子は母親と離れてはいけないんだよ」
「そーだけどさあー」

屋敷に荷物を置く為にそのまま一本道を歩いていると、見覚えのある人影がぽつんと見えた。阿高は目を凝らすと、それが嫁だと気付く。同時に彼女もこちらに気付いたようだった。
「真広、まあ、あなたまた父さんのところに居たのね」
苑上は腰に手をあてた。
「もう、母さん探してしまったわ。夕暮れ近くなのに戻らないんだもの。勝太だけ帰ってくるし」
むくれたように黙る真広に苑上は首を傾げる。
「どうしたの」
「拗ねてるだけだよ。明里といい、こいつといい。お前が双子ばかり好きなんだと思い込んでる」
「まあ」
苑上は笑った。
「母さんも、母さんばかりあなたたちが好きなんだと思っていたのよ。父さんのところばかり行って。面白くないわ」
「母さんが双子ばかり構うからじゃないか」
「そうね。まだ乳離れしないから、もう少しね」
ゆっくり苑上は言って微笑んだ。
「おいで。今日はよく晴れたから夕日がきっと綺麗だわ。一緒に見ましょう」
拗ねて返事しない真広の尻を、阿高ははたいた。
「ほら、コゲは今度見せてやるから」
「分かった、行くよ」
するすると阿高の肩から器用に降りながら真広は言い、差し伸べられた苑上の手を嬉しそうに掴んだ。
「明里は?」
「お姉ちゃん」
やんわり正して苑上は言った。
「屋敷に戻っているわ」
「呼んできてあげる」
真広はせっかく繋いだばかりの手を離してしまうと駆け出して行ってしまった。
その様子を苑上は目を細めて眺めると、息をついた。
「真広は本当に優しい子だわ」
苑上は続けた。
「駄目ね、私は。上の子にさみしい思いをさせて」
「あんな事言いながらあいつらこそ双子に付きっきりだろう」
阿高が思わず吹きだしながら言った。目を皿のようにして小さい妹たちを見つめている二人の姿が阿高は大変お気に入りだったのだ。
「あいつらも姉弟と言うよりは双子みたいに育ったから、妹が出来て本当は一番喜んでいるよ」

苑上は阿高に寄り添って暫く息子が走っていった方向を見つめてから口を開いた。

「明里と真広のことが本当に愛おしくて仕方ないから、また子どもが欲しくなったのだといつか分かってくれるかしら」
阿高は少し笑った。
「あいつらが親になったときに分かるんじゃないか」
「まだまだ先ね」
「どうだか。あっという間かも」
阿高が意地悪めいて言ったので苑上は軽く睨んだ。夫はおかしそうに笑いを返す。ふと苑上は言った。
「あなたとの子どもがこんなに可愛いだなんて。大発見だったわ」
「そう?」
「阿高の子どもだから欲しいのよ」
「…うん」
阿高はいつまでも気持ちを素直に言い表してくれる苑上を本当に愛おしいと思った。いつか穏やかな家族愛に変わると思った気持ちは
なかなかそうはならない。
くすくすと笑って苑上は阿高を見上げた。
「双子はあなたにそっくりね。きっととびきり美人になるわ」
阿高は横目で苑上を見やる。少女めいた顔と言われるのはあまり嬉しくなかった。
「祭では一番人気かもしれないですね。婿選びにはきっと困らないわ」
思わず阿高が口を挟んだ。
「まだ先だよ」
「それはどうでしょう」
阿高が小突いてきて苑上は大げさに痛がってみせた。



「明里、ここに居た」
息を弾ませて部屋に飛び込んできた真広を明里は一瞥してふいと顔を背けてみせた。
むっとして真広は再び呼びかける。
「明里ってば」
それでも返事をせずに赤子を抱っこしている姉を、真広は渋々呼び改めた。
「姉ちゃん」
「真広ったら、どうせ父さんのとこにでも行ってたんでしょう。甘えんぼ」
明里がこちらを振り向いて言った。色素の薄い髪が肩までかかっている。お姉さんらしく見えるために伸ばすのだと言っていたが、拗ねた顔はとても年上に見えなかった。
「どっちが。明里もよく来るって父さん言ってたもんね」
「うるさいなあ真広は」
唇をとがらせて明里は言った。
「全然お姉ちゃんって呼んでくれないし」
「俺のほうがお兄ちゃんに見えるってよく言われるよ。明里はどこか抜けているもの」
姉はますます機嫌を悪くした。
「もういい。この子たちには絶対お姉ちゃんって呼んでもらうもん」
まだ意味の成さない単語しか言えない双子に向かって明里は微笑んで見せた。
「勝は?」
いつも一緒に居る藤太の長男が見当たらず、真広は尋ねた。「先帰っただろ?」
明里が黙りこくったので、真広は呆れて苑上がよくやるように腰に手を当てた。
「また喧嘩したんだ」
「勝ちゃんが悪いんだもの」
曖昧に言葉を濁して明里が言い、真広は責めるような目線を送った。
「勝が悪いとこ見たことないけど。どうせ明里が悪いよ」
「…勝ちゃん、怒ってるかな?」
しょんぼりした様子で言うので、真広はやれやれと息をついた。
「後で一緒に謝りにいこうよ。それよりさ、母さんが夕焼け見に行こうって」
「母さんが?」
目を輝かせて明里が顔を上げた。うとうとしかけていた赤子が薄目を開けて、それからまた目を閉じる。
明里が気付いて肩をすくめた。
「でもこの子たちは?」
「叔母さん呼びに行って来るよ」
真広は起こさないようにそっと扉を開けた。



丘の上へ急ぎながら真広は後ろを振り向く。「遅いよ」「ずっと正座していたから足が痺れるんだもの」
確かに足元がおぼつかない明里を見やって、真広は引き返した。
「しょうがないな」
手を引っ張ってやりながら真広はふと言った。
「明里、俺に何も言わなかっただろ」
明里がきょとんとしたので真広は付け加えた。
「母さんのことだよ」
明里は肩をすくめた。
「聞いたの」
「なんで言わなかったんだよー」
拗ねる弟を見やって、明里は答えた。
「だって言ったらあんた都に行きたいと言い出しそうだもの」
「明里は行きたくないの?」
「行きたくないよ」
明里は不貞腐れたように言ったが、そのまま夕焼けを振り返った。明里の白い片頬に夕焼けが映る。姉の肌の白さは苑上似だったが、それを苑上に言ってもいつも何も言わず微笑むばかりだった。そんなことを思い返していると明里は大きく息を吐いた。

「私は竹芝が好きなの」

はっきりとそう言って真広に
向き直る。その表情は真剣そのもので、思わず真広は黙りこんだ。
「父さんも母さんも居て、自然があって、馬たちも、夕焼けも、川も、風もみんな好き。真広はそう思わないの?」
挑むように言う姉の真剣さに真広はたじろいだ。
「思うけど…」
「…ここから出ていきたいなんて
、今までもこれからも絶対思わない」
それから明里は言葉にできないもどかしさでだろうか、表情を少し歪めた。
「父さんもここを出て、戻ってきたのよ。母さんも都で育ったのに、ここに来たいと思ったの。それだけいいところってことでしょう?」
「出てみないと分からないよ、そんなこと」
真広はそれから姉に安心させるように微笑んで見せると、手を握った。
「でも皆ここが好きだよ。勝だってなんだかんだ言ってここから離れないと思うな。馬が好きだもの」
「本当に?」
表情を明るくした明里に笑って真広はからかった。
「分かった。また勝が都に行ってみたいって言ったんだろう。それで明里が怒ったんだ」
「知らない」
今度は顔を赤くして明里が言った。
「俺まで都に行きたいって言い出せば勝は絶対行くもんな」
「知らないってば」幼い子がそうするように明里は頬を膨らませた。

そのとき二人を大きな影が覆った。見上げると夕焼けを背にして父親が立っていて、姉弟は手を取り合ったまま揃って目を丸くする。
父親はいつもの愛想無しで二人を見下ろしていた。
「遅い」
「だって」
明里が唇を尖らせるのを見て素早く真広が阿高に言った。

「明里は双子の世話してたんだよ」

阿高が少しの間のあと、拗ねた明里に微笑んだらしい。逆光でよく見えなかったが、それでも父親が表情を和らげたのは充分伝わった。
「そうか。えらかったな」
顔を押し付けるようにしてしがみついてきた明里がそのままおんぶをねだって、阿高は苦笑しながら背を差し出した。

機嫌を直した明里が嬉しそうに笑うのを少しほっとして見ていると、真広の頭に父親の大きな手が下りてくる。そのままぐしゃぐしゃと撫でられた。
真広が阿高を見上げると父親は目だけで笑いかけてみせた。何も言わなかったがそれが父親の「褒め言葉」であることを真広は随分前から理解していたので、嬉しくなって表情を緩めた。僅かに感じていた寂しさが綺麗になくなってしまったのだった。
「母さんは?」
「すぐそこの丘」
阿高が顎でその方向をしめした。
「早くいかないと陽が落ちちゃうよ」
真広はそう言うと駆け出してしまった。阿高は眩しい夕焼けに目を細めると、背中で早く早くと急かす娘を背負い直して足取りを早めた。

あなたがいれば~薄紅天女・阿高と苑上(じゃくさん)

2013.01.01.Tue.05:20
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あなたがいれば~空色勾玉(じゃくさん)

2013.01.01.Tue.05:00
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やわらかな髪   (糸村和奏さん)   

2013.01.01.Tue.05:00

なにやら視線を感じ、阿高が振り向くとそこには鈴がいた。
「あ」
「……なにか用か」
予想外に近い距離に内心うろたえつつも、顔には出さずに阿高は尋ねる。一方鈴はまったく悪びれることなく、中途半端に伸ばした手を振った。
「ごめんなさい。ちょっと、いいなあって思って」
「は? 何がだ?」
「あなたの髪が」
意味が分からず首を傾げると、鈴が笑った。
「あなたの髪、すごく柔らかそうだから。触ったら気持ちいいかしら、と思ったの」
思いがけないことを言われた阿高は面食らった。
「おれの、髪?」
「ええ。でも、急にしたらびっくりするわよね。ごめんなさい」
謝るのはそこなのかと思いながら、阿高は改めて鈴をまじまじと見る。生粋のお嬢様育ちでどこか天然なところがある彼女には、今までにも何度か驚かされてきたが。今回もまたおかしなことを言い始めたものだ。
髪に触れるという行為は不思議な親密さを感じさせる。相棒のように恋だ愛だと騒ぎはしない阿高でも、それは感覚で分かっていた。
ここに藤太たちがいなくて良かったと思いながら阿高は尋ねる。
「……なんでいきなりそんなことを思ったんだ」
「だって」鈴はあっさり答えた。「わたくしの髪は、とても結びにくいの」
「は?」
意味が分からず問い返した阿高に、鈴は口を尖らせる。
「千種さんのお家に遊びに行った時にね、綾音ちゃんと3人で髪を結び合いっこしたのだけど」
綾音というのは千種の従姉妹である。流行にうるさく情報通だと評判で、悪い子ではないのだがとにかく賑やかだ。
阿高としてはあまり近づきたくないというのが本音だったが、その彼女が、せっかく女子が集まったのだからと最近のファッション雑誌をいくつか持ち込んだのだと言う。
そこにヘアスタイル特集、というのが載っていたので、3人でいろいろと試してみることになったというのだ。もっとも先陣を切っていたのは常に綾音で、千種と鈴は半ば引きずられるような形だったようだが。
「千種さんはアップにしたらすごく可愛かったのよ。藤太に見せてあげないとって、綾音ちゃんが携帯で写真を取ってたの」
「……ああ、それでこの前藤太がうるさかったのか」
いつも千種千種とやかましい相棒が、数日前にことのほか騒いでいたのを阿高は思い出す。確かに、「見ろ阿高、千種のうなじが!」などと意味の分からないことを言っていた。おそらく綾音から写メールでも送ってもらったのだろう。
「でも、わたくしの髪はまっすぐでしょう。結んでも落ちてきてしまって、うまくアレンジできないって綾音ちゃんが言うの。うまく癖がつかないんですって」
「それがなんだ」
「だから、阿高の髪がうらやましいなって思ったのよ。結びやすそうで」
阿高が思わず身を引いたのを見て、鈴はころころと笑った。
「安心して。別に阿高の髪で遊ぼうとは思っていないから」
「おまえな……」
「でも、ちょっとだけ触ってみたいの。ダメかしら?」
言われて阿高はためしに自分で毛先を摘んでみる。昔から猫っ毛と言われている、触り慣れた感触だ。
「……べつに面白いものでもないぞ」
「いいの?」
鈴が顔を綻ばせて手を伸ばす。
頭に触れるくすぐったい感触に、阿高はうろたえて顔をしかめた。気づけばさっきよりも鈴との距離が近い。椅子に腰掛けている自分の目の前で、立ったままの鈴の制服のリボンが揺れている。
にわかに落ち着かない気分になった阿高をそっちのけで、鈴は無邪気にはしゃいでいた。
「ほんとうに柔らかいのね、阿高の髪って。藤太とはまたちょっと違うわ」
聞き捨てならない言葉に、阿高は思わず声を上げた。「おまえ、藤太にも同じことをやったのか?」
「? ええ、昨日」
「いいって言ったのか、藤太は」
「千種さんも一緒に触ったもの」
藤太のやつ、と阿高は内心舌打ちする。彼にとって鈴は妹のようなものなのだろうが。
「……他の奴には」
「まだしてないわ」
阿高は髪をなでる鈴の手をおもむろに掴んだ。
「阿高?」
それでも動じた様子のない彼女に、思わずため息が漏れる。
なにやら無性に悔しい思いがして阿高は立ち上がり、鈴の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。
「きゃ、ちょっと、阿高!」
「おまえだっておれに触っただろう、仕返しだ」
鼻を鳴らして阿高が言うと、鈴は「そんなのずるいわ」とうらめしそうにぼやく。
「もう、結びなおさなきゃいけないじゃない」
二つに結ばれた鈴の髪は、指からすり抜けるようにさらさらだった。なるほど、これでは確かに癖はつきにくいだろう。
なんとなく胸がすっきりした阿高は、さっきから思っていたことを尋ねてみた。
「ところで、おまえの写真はないのか」
突然の問いかけに、鈴はきょとんとする。「なんのこと?」
「髪をいじった時、千種は写真を撮ったんだろう。おまえも撮ったんじゃないのか?」
するとめずらしいことに、鈴は目を泳がせた。
「ええと、その、ないの。わたくしは撮ってないのよ」
嘘が下手なやつだ、と阿高は思った。別にそこまで写真を見たいというわけではなかったが、こんな反応を見せられると気になる。
「見せろよ。どんな奇抜な頭になったんだ」
「撮ってないったら! ね、もう帰りましょう!」
「こら、逃げるなっ」
慌てて鞄を持って駆けていく鈴を、阿高はおかしくてたまらない気分で追いかけた。


「あけましておめでとう、阿高」
ずっと家で練習してきたというそのヘアスタイルを、阿高が目にすることになるのは。初詣の日のことである。



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