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12/30 薄紅(現代) 32対64×戦乙女

 日差しのまぶしさに目がくらむ。 青い空には雲もなく、夏の海はおだやかに潮騒をひびかせている。「どう考えても、分が悪いな」 パラソルのした、うんざりした藤太の言いように、阿高はうなずいた。「あっちは64、こっちは30ちょっとだ。まあ、すこし考えても勝ち目はない」「いいえ、負けません!」 フラッグを砂にざん、とさした鈴は、胸を張って声を上げた。誰のものか、麦わら帽子が風にとばされていく。「阿高、ウオ...

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12/27 薄紅(現代) 紅白×昔風

「赤い糸を、阿高は信じる?」「なんだよ、気持ち悪いな」 阿高は顔をしかめた。「だから、運命の恋のことよ」 どうしてあがりこんでしまったのだろう。荷物は玄関先において帰ればよかったのだ。 修学旅行で見学したナントカという寺の庭のごとき枯山水を、阿高はとほうに暮れてながめていた。「そんな話より・・・・・・」 部屋にかけられた白無垢が気になる。「これは、おばあさまのものです」 知り合いに貸す予定があるのだとい...

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12/24 薄紅 雄志×桐箱

 長櫃をあけ、ごそごそさがしものをしている鈴を見かけて阿高は声をかけた。「どうした?」 手を止めて顔を上げた鈴は、頬を染めていた。「なんでもありません」 視線をうろうろさせるのが、あやしい。「おまえがなんでもないというときには、たいてい何かあるんだ」「わたくしを信じないの?」 阿高は鼻を鳴らした。びくっとするところが、なおあやしい。 桐の長櫃には着物がしまってある。半分は阿高の冬着で、もう半分は鈴...

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12/21 薄紅 あまつ風×食卓

「食えよ」 藤太がさしだした握り飯を、阿高はためらいながら受け取った。「どうしたんだ、腹がへっているんだろう。食えよ、食え」「うるさいな、食うよ。言われなくても」 いびつな握り飯だ。一口ほおばると、なぜかじゃりっとする。 砂か? ・・・・・・砂だ。 水でなんとか飲み下すと、阿高はため息をついた。 牧へきたのは久しぶりだった。 遠くでまだ馬のたてがみをなでている鈴を、阿高はながめた。「なんで握り飯に砂がま...

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12/18 薄紅 振る舞い×猫背

 その日はもてなしの準備で朝から忙しかった。 忙しいというのはいいことだ。 変わっていくものを惜しむさびしさを、まっこうから見ずにすむ。「はやいものね。あの子がお嫁にいくなんて」 千種のしんみりした声音に、鈴はただうなずいた。 息子と娘に恵まれて、それから何年たったことだろう。 竹芝の土地への親しみは年をおうごとに深まっていく。ともに暮らす人たちと泣き笑いをするたび、鈴も竹芝の景色になじめるような...