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迷惑なみやげ

 春がきた。 武彦は、村のはしに流れる小川のあたりで、話し声を聞き止めた。 川向こうの里からみやげを持たされて帰ったところだ。 芽吹きをまつ桜の古木のかげに、あるじの姿が見える。おそらくそのそばには、ただひとりの想い人がいるのだろう。「ごめん、遠子。機嫌を直してよ」 まただ。謝るほどのことでもなかろうに、軽々しく頭を下げすぎる。 地位を手放したとて、武彦にとってはまほろばの皇子であることにかわりは...

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12/29 白鳥(現代) もっともらしい×ボーイフレンド

 おれは、あの子が好きだ。 橘遠子をみているだけで元気が出る。ポニーテールをゆらして走っている姿を見たときに、好きになった。一目惚れだった。 二年になって同じクラスだとわかったとき、チャンスだと思った。何度もちょくちょく話しかけているうち、あの子は笑顔をみせてくれるようになった。 橘の表札を確かめて、真太智はインターホンをおした。 彼女が忘れた課題のノートを届けにきた。隣の席のよしみ。家もそれほど...

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12/26 白鳥 若々しい×ふしょうぶしょう

「そなたの夫は・・・・・・」 真刀野は、座したままその声を聞いていた。 胸の高鳴りをおさえることはできなかった。十六になった春、橘の女はつとめを知らされる。一族を守るため、そして栄えさせるため、あるものは神殿にゆき、あるものは婿をむかえ婚いをする。 真刀野に巫女としての才はない。それは幼い頃から自分でもよくわかっていた。それに、深山にある寒々しい神殿で、ひたすら勤行をするのは若い娘にとっては考えるだけで...

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12/23 白鳥 空腹×目つき

 帰り道をみうしなった子どものようだ。 腹を減らしてむずかる赤子でも、こんな情けない顔はしないだろう。 菅流は小倶那をみかけてため息をはいた。たき火のそばに一人きり、腰を下ろした小倶那は、いまにも闇に溶けいりそうだった。 心がかつえているのだ。からからに乾いて、乾いていることにすらも気づかない。「それほど恋しいか」 菅流はきいた。たき火の火明かりに照らされた小倶那の顔は、将としての昼間の様子とあま...

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12/20 白鳥 おどり舞う×青々

 冷たく身を凍らせる風が遠ざかったと感じるようになると、七掬は故郷の山々を思い出す。まだ根雪はとけ残っているだろうか。 顔を見せなくなった主が、なにかよからぬ計画を立てているらしいという話を聞く。人づてに耳にするのが、妙に不安をあおるのだった。 冷静なようでいて、身を捨てることができるものをいつも探し求めている。(それが大碓命というお方だ) 七掬はつねづねそう思っているのだった。(命を捨てる場所を...